市川由紀乃

(C)UTANOTECHO Inc.

※本インタビューは、「歌の手帖」2019年6月号収録の文章を当時のまま掲載しております

「3月は愛知・御園座での「五木ひろし特別公演」で大役を果たした、我らが由紀乃ちゃん。
新境地を拓いた新曲『雪恋華』は絶好調、コンサートツアーもあり、さらに7月には初!座長公演が控えている。
そんな彼女に、去年末から現在までの心境を紐解いてもらった。

撮影/島崎信一

■プロフィール

本名/松村真利
1976年1月8日生まれ、A型
埼玉県さいたま市出身
趣味/妄想
好きな花/なでしこ、サクラソウ
作曲家・市川昭介氏の門下生
1993年8月21日、『おんなの祭り』でデビュー

明日から降らせる

─御園座公演、お疲れさまです。
新曲『雪恋華』を歌唱された時に雪が降りはじめて、とても劇的で綺麗でした。

「実は、最初は降っていなかったんです。
初日過ぎて何日かして、五木座長にご飯へ連れて行っていただいた時、〝『雪恋華』の時は雪が降った方がいいね。明日から降らせるから〟と言ってくださって、実現したんです」

─お優しい先輩ですねぇ。
初めての大舞台、お芝居の方はいかがでしたか?

「お芝居は難しいです。
セリフを覚えて、動きもあって。
本当に、共演の皆さんがいい方ばかりで…いろいろ教えてくださるんです。
お稽古から〝あそこはこうした方が、より良くなるよ〟とか。
五木座長はもちろん、林与一さんにも、たくさん教わりましたし、学ばせていただきました」

─第2部のショーでは五木さんとのデュエット『ふたりの大阪』もあり、♪ラストダンス~の息の合わせ方がぴったりで驚きました。
あのフレーズは、唄う方によって〝ト〟から〝ダ〟のタイミングが微妙に違いますし。

「本当ですか!? 嬉しいです!
座長がいろんな方と『ふたりの大阪』を唄ってらっしゃるので、全部聴いて、タイミングを覚えました(笑)」

ストレートに

─もう4ヶ月くらい経ちますので今更伺うのはいささか胸が痛むのですが……
思い出す度に悲しく、また悔しい気持ちになります…
昨年末のNHK紅白歌合戦へ由紀乃さんが出られなかったことは、〝寝耳に水〟とはまさにこのこと、と。
初出場者会見の日に、我々は全出場者を知る訳ですが、由紀乃さんはいつ…?

「皆さんと同じ日でした。
お仕事先の駐車場で、マネージャーさんから〝今年は残念だったけど、また頑張りましょう〟と。
ダメかもしれない、という覚悟は常にありますし、毎年出させていただける保障はどこにもない訳ですから。
…1年頑張ったご褒美が、紅白という大きな舞台なんですね。
ご褒美をいただけなかった、それはきっと私自身に足りない部分がたくさんあったんだと思うんです。
なので、マネージャーさんから聞いた時には、結果をストレートに〝わかりました〟と受け止めました。
ただ、応援してくださっている皆さんを、がっかりさせてしまい、悲しい気持ちにさせてしまったことが……本当に申し訳なくて。
ごめんなさい」

─ファンの皆さんも我々も、今年はさらなる応援をしていますから。
優しい先輩方からも、あたたかい言葉をもらったようですね。

「女性の諸先輩方からラインやメール、たくさんお声をかけてくださって。
収録でお会いした由紀さおりさんは〝ゆきのさ~ん〟って抱きしめてくださって…
その後、手紙を事務所に送ってくださったんです。
〝自信を持って、前を向いて。肩身が狭いなど思わず、前に出なさいね〟と。
嬉しかったです。

嬉しいといえば、一昨年、大変に悔しい思いをされた純烈さんが紅白に初出場出来て、すごく嬉しかったんです!
すぐにリーダーへライン送りました(笑)」

苦労した〝と〟

─新曲が届く前は、いつもソワソワドキドキします(笑)。
どうぞ、素敵な楽曲でありますように…と。
そんな期待と不安が綯交ぜになったことが吹っ飛んでしまった、『雪恋華』です。

「ありがとうございます!!」

─解放的に、全面に切なさや情念を溢れさせていて。
特に、♪もっと~の〝と〟がすごい!
色っぽい!

「嬉しいです!
〝と〟はとても苦労しました(笑)。
元々、唄いたい世界で、実は4年前に出来ていて。
『心かさねて』の次に出そうと準備していたんですが、スタッフさんの中で〝まだ早い〟という声もありまして。
やっと発売出来る!と喜びでいっぱいです」

─『娘道成寺』なども激しい歌ですが、やはり若い頃の艶歌とは、ひと味もふた味も違うし。
レコーディングはいかがでした?

「オリジナル曲のレコーディングとしては、今までで一番時間がかかりました。
一度全部終わって、皆さんと録った歌を聴いていた時、幸耕平先生方やスタッフさんたちから〝ん? このフレーズはもっとこう唄えるはずだよね? どうする?〟〝やります!〟と。
また、ボーカルブースへ戻って唄いなおしたら、〝1コーラス目が出来たなら、2コーラス目も…どうする?〟〝やります!〟。
その度、幸先生がギターを持ってブースへ来てくださって、フレーズを弾きながら〝さぁ、唄って!〟〝はい!〟と、まるで部活のようでした(笑)」

市川由紀乃

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─もの凄い熱の入ったレコーディングだったんですね。
今までにない市川由紀乃を…というスタッフ陣の愛情を感じます。
そういえば歌唱時には、もっと崩れ落ちる振りが付いているのかと思っていました(笑)。

「(笑)、崩れ落ちそうで落ちないんですよね。
今回も振りは、三波美夕紀先生が付けてくださいました。
あまりやり過ぎると、テレビ等では恐くなりそうなので…(笑)」

─ジャケット写真やステージでは、きりっとまとめ髪ですが。
実は、ちょっとゆるい髪型で、唄っている途中で髪が頬にかかったりしてほしい…と妄想していました。

「あ! 私もですね、最初に聴いた時、途中でまとめていた髪のかんざしを抜いて、はらりとさせる…そんなイメージが浮かびました。いつか、やってみたいです。
髪型、唄う度に変えてみようかな…
斬新な着物でも唄ってみたいし、いろんな夢が膨らみます」

─今回、この撮影で着てくださった着物も斬新で素敵ですよね。
昨年末の日本レコード大賞で着てらしたもの。

「はい、『雨に濡れて二人』で企画賞をいただいた時に着ました。
歌の手帖さんの表紙なので、絶対にこのお着物を!と思いまして(笑)」

─ありがとうございます!
新曲のカップリング、初回限定盤は『鴨川の月』、通常盤にはコンサートの人気曲『あなたがそばに』ですね。

「はい。
ジャケット写真も違いますので、お好きな方…もしくは両方とも楽しんでいただけたら、嬉しいです」

市川由紀乃

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チャレンジ!

─いよいよ初座長公演ですね!(欄外参照)。
おめでとうございます。
しかも、第1部のお芝居では島倉千代子さんを演じますし。

「御園座さんの舞台があっての座長公演…いろんな意味で、五木座長が道標になってくださいました。
まだまだ座長としての実感が全然ないのですが。
座長公演をやらせていただけるなんて…とてもありがたいです」

─島倉千代子さんとお会いしたことは?

「3回くらい…ですね。
もっとご一緒したかったです。
そんな私が、まさか島倉さんを演じさせていただくなんて…」

─取材行きます!
それにしても、今年も多忙ですねぇ。
コンサートツアーがあり、新曲キャンペーンもあり…。

「丘みどりさん、杜このみさんとの雪月花コンサートもありますし。
どのステージでも来てくださったお客さまに、とにかく喜んで、楽しんでいただきたいです」

─今年は座長公演という新たなチャレンジがありますけど、ほかに…楽器とか、何か挑戦したいと考えていることは?

「去年から英語を始めたいなって思っています。
美空ひばりさんの音楽祭でハワイへ行ったんですね。
それで、カタコトの英語と日本語で通じたんですけど、英語が話せたらもっと楽しいだろうなぁって。
ステージでも、英語で自己紹介とか出来たらぐっと客席と近くなる!と。
今年は、プライベートで海外にも行ってみたいんです。
スヌーピーミュージアムとユニバーサルスタジオに行きたいな…(笑)。

あとは運動、体を動かしたいです。
年を重ねて行く毎に身体を引きしめたい。
それと…平成が終わるまで…は無理ですが、年内に富士山に登りたいです」

─富士山に?
仕事や日々の生活で十分、気持ちの山登りをしていて相当、しんどいこともあるのに、身体の限界も超えたい?

「そうですね。
普段のほほんとしちゃって…ギリギリで自分を追い込むの好きなんです。
最終的に自分にムチ打つのが好きです(笑)」

─そういえば、自宅でたこ焼きパーティをされたとか。

「ガスのたこ焼き器の方が上手に焼けるって聞いて、取り寄せて買いました(笑)。
とっても美味しかったです。
タコが足りなくなってしまって、最後の最後は、頂いたブロックのベーコンとチーズを入れて、タバスコをかけて食べました。
美味しかったです♡」

今、一面真っ白な世界…

市川由紀乃

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─最近、映画は観た?

「公開前の『こんな夜更けにバナナかよ』を観させていただいたんですけど、大泉洋さんが大好きになりました。
とても面白かったですし、よかったです」

─2019年後半、気合いはどんな色?

「白です。
『雪恋華』の雪も白いですし。
心新たに、という気持ちもあります。
お正月に秋田へ雪化粧を見に行ったんです。
本当に雪が散る散る~という景色で一面真っ白、吐く息も真っ白。
いろんな思いを真っ白にしてくれました。
ただただシンシンと積もる雪の音を聞いて、部屋で過ごしていました」

─真っ白な世界、座長公演やさまざまな経験で、色が加わっていくかもしれませんね。

「はい、いろんな色が息づいて…いろんな色に変化していけたら…いけるように懸命に、心穏やかに、過ごしていきます!」

■今回、インタビューは2回に分けて行ったが、1回目は1月中旬。
お会いした瞬間、「紅白…」とお互いに口にしたが、自分は「(由紀乃さんがいないなんて)悔しかったよ…」で、由紀乃さんは「(純烈さん)おめでとう~~!本当、よかったですよね!!!」と満開の笑顔。
そんな会話の1つひとつ、エピソードの端端に、市川由紀乃のあたたかくやわらかな人柄が伺えて、益々応援したくなるのだ。
今年はきっと…!

■市川由紀乃 初!座長公演
7月5日(金)~18日(木) 開場60周年記念 大阪新歌舞伎座特別公演 第1部/島倉千代子七回忌追善「人生いろいろ~島倉千代子物語~」 第2部/市川由紀乃オン・ステージ

■コンサート2019ツアー
4月24日(水)長崎ブリックホール/5月15日(水)埼玉・本庄市民文化会館/5月31日(金)大阪・八尾プリズムホール/6月1日(土)奈良・橿原文化会館/6月13日(木)ロームシアター京都ほか

※本インタビューは、「歌の手帖」2019年6月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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