舟木一夫【歌の手帖2018年11月号】「55周年の深呼吸」巻頭インタビューより

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舟木一夫 55周年コンサートツアー

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舟木一夫 芸能生活55周年ファイナル 特別公演

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舟木一夫 55周年を迎えた今年、1月に新曲『みんな旅人』リリース

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※本インタビューは、「歌の手帖」2018年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

どこの会場も熱気溢れている舟木一夫のコンサートツアー。
今年は特に55周年ということもあり一層、華やぎ盛り上がっている。
11月のツアーファイナル、12月には55周年ファイナルの特別公演を控える今、ざっくばらんにその胸中を訊く─。

撮影/浅見健一

■芸能生活55周年ファイナル 舟木一夫特別公演
12月2日(土)~24日/東京・新橋演舞場
通し狂言忠臣蔵(前編〈昼の部〉花の巻/後編〈夜の部〉雪の巻)
出演=里見浩太朗(特別出演)/林 与一/尾上松也/紺野美沙子/田村亮/曾我廼家文童/葉山葉子/林啓二/丹羽貞仁/長谷川稀世ほか(昼夜で出演者は異なります)
シアターコンサート(昼夜別構成)

■55周年を迎えた今年、1月に新曲『みんな旅人』リリース、同月、新橋演舞場でのシアターコンサーを皮切りに全国55ヶ所ツアースタート、5月は大阪新歌舞伎座にて特別公演、7月に浅草公会堂でスペシャルなコンサートと衣裳展を開催、9月にはシアターコンサートを大阪・松竹座…と72歳とは思えぬ精力的な活動を展開、もちろんどこの会場も超満員の大盛況─と、9月に過労により緊急入院、というニュースが飛び込んできたが…。

「お仕事中、失礼します」

無事、退院されて安心いたしました。しかも、とてもお元気そうで…(笑)。

「頭ン中以外、元気(笑)。やっぱりね、72歳にしてはちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな、と。〝お前もいい加減にしろよ、トシだよ?〟という天の声だね(笑)」

確かに、スケジュールぎっしりですので。

「まぁ、点で捉えると過密だと感じるかもしれないけど、線…流れで見るとそんなにはね。ただ、55周年ということで、元々スケジュールとしては予定しなかったものがたくさん入ってきちゃったんだよね。自分では、線でやってきているから、どこかで負荷がかかり過ぎていると感じない部分があって。ご存知のように、来年からは仕事のやり方…1日2回公演を1回にしたり、変えていきますのでただ今年だけは、どうだろう?例年の20%くらい負荷は増えると考えていたけど、40%くらいになっちゃってたんだよ(笑)」

何でも、病室でお仕事されていらしたとか。

「やってた、間に合わないんだもん(笑)。健康になってからやる仕事に間に合わなくなっちゃうから、仕方ないよな。看護師さんが〝お仕事中、失礼します〟って入ってきて、出るときには〝どうぞ、ゆっくり仕事なさってください〟って(笑)」

約1週間の入院でしたが、深刻な雰囲気ではなかったんですね。

「そう。ただただ身体を休めなさい、と。コンサートをやるはずだった大分、鹿児島、福岡の皆さん、関係者の方々には本当にご迷惑をおかけして申し訳なかったです。来年、振替公演が決定しましたので、ご勘弁いただければ…」

17分の組曲

7月に浅草公会堂で2日間開催されたコンサートでの、約17分に及ぶ組曲『日本の四季~春夏秋冬』は本当に圧巻でした。

「45年前にレコーディングして以来、初めて唄ったし。もちろん、ちょろっとチェックはしたよ。あの組曲は、ものすごい集中力を要するんだけど、俺だけではなくてバンドのメンバーもそう。大変、譜面だけでも、46ページあるから。リピートなしの矢印一方通行(笑)」

組曲はもちろん、舟木さんの歌を聴いているといろんな風景が鮮やかに浮かびます。

「そうなってくれたらうれしいな、と思って唄ってるよ。歌詞には、作り手の思いが底にあって、唄う人によって伝わり方が変わるけど、やっぱり歌詞を理解して唄うと歌がふくよかになるよね、それは俺だけじゃなくて。歌詞にわからない言葉が出て来ると辞書で調べるでしょ? わからないで唄っちゃいかんよ(笑)。でも辞書は言葉の意味を説明してくれるだけで、感性は教えてくれない。昔、『絶唱』を辞書で調べたけど、なんのことかやっぱりよくわからん(笑)。でも、歌詞をよく読んで自分の中に入れば、風景が見えてくる。それがお客さんに伝わるかどうかというのは、別の話で。昔からよく言われてるのが『高校三年生』の♪クラス仲間は~を〝(下宿などで)暮らす仲間は〟だと思っていた人が多かったと(笑)。それは一例で、やっぱり聴いてくださる方によって、受け取り方って変わるよな。それは自由でいいと思うよ」

少々話がずれますが最近では、テレビはもとよりステージでも歌詞を見ながら唄う若手が増えたようで…舟木さんのステージを観て勉強して欲しい…とか少し思ってしまう訳で。

「まぁ、俺たちは古い人間だからね(笑)。レコーディングだって(オーケストラと)同時録音だったし。ご存知のように、『高校三年生』だって間違えるときあるしトチリが怖くてライブが出来るか!という(笑)。ライブは自分に対しての挑戦、〝この歌やってみたい〟〝出来るのか? やるなら覚えるしかないじゃないか〟と自問自答するわけだ。ライブがやっぱり好きだしもしさ、目の前に歌詞が出てきて見ちゃったら逆にトチるよ。あれ?今どこ唄ってるんだっけ?って(笑)」

とちりが怖くてライブができるか!(笑)

舟木一夫「大阪新歌舞伎座さんでの特別公演、第1部〈鬼吉喧嘩状〉のラストが衝撃的でした」

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初めての通し狂言

2017年を少々、振り返りますと…大阪新歌舞伎座さんでの特別公演、第1部〈鬼吉喧嘩状〉のラストが衝撃的でした(笑)。

「セミヌード?(笑)。これは、実話として残っているんだけど、子分を引きつれた旅先で、寝ている間に着ているものからすべて持って行かれてしまい、20人近くが裸道中をした、という話があってね。流れの明るい話であれば、そういうこともちょっと入れた方が、いい意味で間抜けな話になるじゃない? それにしてもあんなに、最後まで主人公がアホでノー天気で終わっちゃう芝居も珍しい(笑)。僕は、ああいう芝居を一度は作りたかったからね、鬼吉に関しては。あいつ一人が馬鹿、と(笑)」

鬼吉と真逆…と表現していいでしょうか、対極的な演目が12月の新橋演舞場で上演されます。

「両極端だね(笑)」

しかも、〝通し狂言〟の忠臣蔵。共演者の皆さんも豪華、舞台チラシも観音開きで豪華です。

「こういう芝居だから、ペラ1枚のチラシじゃ…と思ってね。昼夜で役者さんも変わりますし。こんなキツイことも今年やっておかないと、もう出来ないだろうと(笑)。とは言うものの、ごく冷静に考えてみれば去年の演目〈華の天保六花撰 どうせ散るなら〉は1時間55分。今回の忠臣蔵は、昼夜ともに仕上がり2時間10分だと考えているので。昼夜2本だけど、覚えてしまったら同じことだから」

通しで観るのはもちろん、昼の部〈花の巻〉と夜の〈雪の巻〉、どちらかだけでも、完結したお話を楽しめますか?

舟木一夫「共演者の皆さんも豪華、舞台チラシも観音開きで豪華です。」

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舟木一夫「今回の忠臣蔵は、昼夜ともに仕上がり2時間10分」

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「完結はしないよ。だって、討ち入りしないと完結しないじゃん。昼の部で討ち入りするわけにいかないし(笑)。いや、もちろん、〝楽しかった〟というお気持ちになっていただく…という意味では完結するよ。それが一番だからね。通し狂言をやるにあたって、昼の部が中途半端に終わるのだけはダメだよ、と。昼の部だけでもエンターテイメントとして成立しないと。夜の部もね。エンタメという言葉が適切かどうかは知らないけど(笑)。ニュアンスはわかってもらえると思う。それが大前提で出発しているから、大丈夫だよ」

どちらだけしか観られなくても、存分に楽しめるということですね。…お稽古が大変そうです。いつもお稽古は短い時間で濃密に!という舟木組ですが、今回はそうもいかないのでは…。単純に考えて、いつもの倍…?

「そうだね。でも倍の時間はとれないよ?それぞれのスケジュールがあるから…いつも通り12時から始めて…通常は下手すると3時半には終わってたけど、今回は6時まではかかるかな。ある程度固まるまではね。のんびり休憩をとりながら。そのくらいの時間はかかるでしょう、いくらなんでも」

55周年をフルマラソンで例えると、最後のラストスパートが山道だった…という感じがします。

「45度のね(笑)」

登った先の景色は、舟木さんにしか見られないのでは…。

「この芝居に関しては、みんなが見られると思う。そういうチームワークじゃないと、この芝居は成立しないよね。とにかく、いつにも増して体力勝負だというところがあるから。役もね、大石内蔵助というのはいわゆる発散型の役ではないから」

忠臣蔵は何度もいろんな方の舞台で拝見しておりますが、今ひとつ入ってこないのです。筋はわかるのですが…

「無理もないよ、登場人物が多いし。エピソードも多いから。主君の仇討ちをするという話なんだけどね。どういうところをチョイスして、絶対にお客さんがカットしてしまったら困っちゃう場は残して…松の廊下と討ち入りね」

では、お馴染みの場がありつつの舟木さんならではのお話に…。

「完全に、これまでの忠臣蔵とは一線を画している。まったく趣の異なる忠臣蔵になるでしょう。それは〈花の巻〉を読んだだけでわかるし。そのあたりのことは、綿密に打ち合わせをしたので。エピソードをたくさん並べるだけの忠臣蔵だったら意味がない、と」

世の中には自分と同じように「忠臣蔵?よくわからない」という方も多いと思うのですが(笑)、そういう方々にも楽しめる、と。

「大丈夫だと思うよ。脚本の齋藤さんが〝舟木一夫の忠臣蔵〟を書いてくれたから。誰がやろうとそうじゃないと、やる意味がないよね」

息抜きは…

2017年、倒れられてしまうほどのスケジュールでしたが、パチンコの方は?

「行ってない。最近、おもしろくないしね。肩凝るし、目は疲れるし…もうトシだなァ(笑)」

では、息抜きは?

「息抜きは、正直な話、マジな……ステージなんだよ。とにかく疲れるよ、疲れるんだけど、気持ち的には結構…歌い手は必要以上の責任感って誰でも持っちゃうものだと思うんだけど、そういった責任感や歌とステージに対する気負いみたいなもの…そういうことがどんどん薄れてきてるんだよね」

気持ち的にリラックスを?

「そうだね。まぁ、逆に言うとステージをやっているとき…芝居でも歌でも…一番、呼吸している感じがする。自分がちゃんと呼吸している感じがね。だから、ある意味、健全なのでしょう」

健全。

「スタッフはもちろんのこと、お客さんの力が大きい。やっぱり、芝居に例えていうと、名言があるんだけど〝そこそこの芝居でも、お客さんがいっぱい入ってくるといい芝居になる〟。お客さんが役者を、芝居を育てるということがあるんだよね。逆も然り。いつも言うように、やる側とご覧くださるお客さんのちゃんと力関係は50・50じゃないと。ヤジロベエが、どっちかだけが強かったら終わりだし、かといって揺れなければヤジロベエにならない。ただの棒だからね(笑)」

ちゃんと呼吸できている感じ

舟木一夫「やる側とご覧くださるお客さんのちゃんと力関係は50・50じゃないと」

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55周年を華やかに終えられそうですが。

「どうやら出来て、ホッとしてる。なんだかんだといろいろを含めて、区切りというか、お客さんに対してね。逆に、翻って、来年からはめちゃくちゃでいいな、と。その心は?と訊かれたら、だって60周年まで唄えるかわからないし、もうぐちゃぐちゃでいいでしょう、と」

以前、お好きな言葉は「支離滅裂」でした。現在は?

「ん?支離滅裂×100(笑)」

編集後記

■来年もコンサートツアーはもちろん、7月には新装される御園座での特別公演も決定。まだまだ〝めちゃくちゃ〟には出来なさそうなスケジュール。きっと、〝俺を幾つだと思ってンの〟とおっしゃりつつ、心躍るステージで魅了し続けるに違いない。ちなみに、黒いセーターの前面を飾るスカル(骸骨)がマイク前で唄っている絵は …「死ぬまで唄う!という決意の表れ(笑)」だそうだ。

※本インタビューは、「歌の手帖」2018年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

このインタビュー内で紹介している楽曲

『みんな旅人』

▼楽曲はこちらのオフィシャルサイトで購入頂けます
日本コロムビア 舟木一夫ディスコグラフィページ

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