山内惠介「歌の手帖」2022年5月号巻頭インタビュー「まごころを、あなたに」

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※本インタビューは、「歌の手帖」2022年5月号収録の文章を当時のまま掲載しております

昨年7回目となるNHK紅白歌合戦に出場し、今年も恒例となる紅白の衣装で本誌の表紙巻頭に登場してくれた山内惠介。
3月2日に発売された新曲『誰に愛されても』の話から、紅白のこと、久しぶりに逢った幼馴染とのことなど、今の山内惠介の思いを真心たっぷりに語ってもらった。

撮影/島崎信一

売野雅勇×水森英夫

新曲『誰に愛されても』は、例えて言えば『残照』や『スポットライト』路線の歌謡曲で、激アツな魂が響くような作品。新曲がこの歌になった経緯は?

「たくさんのヒット曲を書いておられる作詞家の売野雅勇先生に、これまでアルバム曲やカップリング曲は書いていただいていたのですが、シングルのリード曲はなかったので、いつか売野先生の歌詞でシングルを…という想いを胸の中で温めていたんです」

売野雅勇先生作詞による山内さんのシングルは、どんなものになるんだろう?と楽しみでした。

「僕の歌は基本的に、作曲に関しては師匠の水森英夫先生ですが、作詞に関しては星野哲郎先生をはじめ、仁井谷俊也先生、下地亜記子先生、鈴木紀代先生、松井五郎先生など、これまでたくさんの偉大な先生方に書いていただきました。
そして、作詞の方が変われば、同じ水森先生の曲でも、その世界観がガラッと変わることを実感しているんです。
きっと水森先生もその作詞の方の個性や世界観に合わせて、メロディーを作っていらっしゃるのだと思います。
それで、売野先生の個性のある歌詞が、シングル曲としての水森メロディーをどう変えてくださるか?が僕も楽しみだったんです。
そういう流れで作っていただいた『誰に愛されても』が、ファンの皆さまにどう受け止めていただけるか?も、また楽しみなんです」

山内惠介「『誰に愛されても』が、ファンの皆さまにどう受け止めていただけるか?も、また楽しみなんです」

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これこそ売野ワールド

ヒット曲を数多く手がけてきた作詞家・売野雅勇先生の作品で、山内さんが好きな歌は?

「『2億4千万の瞳〜エキゾチック・ジャパン〜』(郷ひろみ)や、『1/2の神話』(中森明菜)、そして同郷のチェッカーズさんの『涙のリクエスト』『星屑ステージ』とか…良い歌がいっぱいありますよね。
リアルタイムでは聴いてないんですが、母親も好きでよく聴いていましたから、知らず知らずに歌を覚えていました。
一番好きなのは、中森明菜さんの『少女A』かな」

売野先生の歌詞は、とても個性が強いですよね。

「例えば、時代に虐げられても、や、涙が燃えてる、という歌詞なんか、たぶん売野先生以外だったら、この言葉は使われないと思うんです。
でも、そういう言葉に〝えっ?〟と思うような引っかかりがあるんです。
これこそ売野ワールド。
そんな売野雅勇先生の作品を僕が唄わせていただけるのは、とっても幸せです」

山内惠介「売野雅勇先生の作品を僕が唄わせていただけるのは、とっても幸せです」

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〝け〟を歌の頂点に

久しぶりの女歌で、男性はもちろん、女性にもカラオケで唄ってもらえそうな作品ですが、カラオケアドバイスをいただけますか?

「♪魂だけれど…の高いF音の〝け〟が大切です。
ここは気持ちいっぱい、爆発するように唄い上げていただきたいですね。
極論すれば、この〝け〟を歌の頂点に持っていくために、その前のメロディーの唄い方の構成を考えて、徐々に盛り上げていくことが一番大事だとさえ思います」

一番最後の♪誰に愛されても~の〝も〟は気持ちも入って、かなり伸ばしていますね。

「昨今、よく注意されるんです。
先生やスタッフの皆さんに、ステージで熱唱して音を伸ばしすぎだと。
自分ばかりが気持ちよくなっちゃいけない、と。
確かに、あんまり唄い上げすぎちゃうと、お客さまも疲れてしまいますから。
だからステージでは、気持ちが高まって伸ばし過ぎないように気を付けているんですが、ステージで気持ちが入ると、つい伸ばして唄ってしまうんです(笑)」

そういう、ほとばしる感情を制御できないところが、歌手・山内惠介の魅力でもありますよ。

「そう言っていただけると嬉しいですが、やり過ぎには注意します(笑)」

美味しいお酒が呑める歌

今回の新曲も赤盤、青盤、橙盤、唄盤と4タイプが発売されます。
まず赤盤のカップリング『はるかの陽は昇る』はフォークロック調の作品で、松井五郎先生による人生のメッセージを描かれた歌詞が魅力的です。

「素晴らしい作品ですが、自分がこういうのを唄うのは、ちょっと早くないかな…という、恐れ多い気持ちもあるんです。
38 歳の僕が人生を唄って良いのかな?と」

歌詞にも、道半ば…とありまますし、人生の答えを見つける旅の途中の歌ですから、全然問題ないと思います。

「小林幸子先輩もおっしゃっていましたけど、一生、自分探しの旅ですよね。
僕は今年の誕生日で39歳なので、今は如何に良い40代を迎えられるか?という気持ちでワクワクしています。
40代って人生でとても大切な時期ですから」

青盤のカップリング『氷炎(ひょうえん)』は、田久保真見先生による裏腹で、逆説的な表現が印象的な作品。

「許さないことが優しさ、という歌詞とか、なるほどなぁ、と思います。
許すことの方が楽ですが、許さない…という苦しい決断こそが、この歌の中の男女の状況では、本当の愛なんでしょうね」

橙盤のカップリング『女の裏酒場』はオーソドックスな演歌。

「昭和演歌です。酒場でこういう演歌が有線とかから流れてきたら、最高に美味しいお酒が呑めそうです。
実はレコーディングが終わって、自分の部屋でお酒を呑んだ時、この歌を何回も聴いていました。
本当に。
美味しいお酒がしっぽり呑める歌なんです」

自分の歌でもお酒が呑める?

「はい。自分の歌で『二十才の酒』『君の酒』『船酒場』とか、酒ものセレクションを作って、それを流しながら呑んだら、お酒に酔って、自分の歌にも気持ちよく酔えるでしょうね(笑)」

この歌をここで唄うべくして僕は頑張ってきたんだ!

山内惠介「7回目のNHK紅白のこと」

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7回目のNHK紅白のこと

今回も昨年のNHK紅白歌合戦で着用した衣装で表紙を飾っていただきましたが、昨年の紅白、今、改めてどう思っていますか?

「『有楽町で逢いましょう』を唄わせていただきましたが、最初は、あれだけたくさんのファンの方々に応援していただいた『古傷』を唄えないんだ…というショックはありました。
正直、落ち込みました。
ファンの皆さまもがっかりするだろうなぁ、と」

昨年『古傷』はかなりヒットしましたしね。

「でも、49年ぶりにNHKホールではない会場でやる紅白。
その東京国際フォーラムがある有楽町で『有楽町で逢いましょう』を唄う…その歌は同じビクターの大先輩のフランク永井さんの作品。
しかも師匠の水森英夫先生は、憧れの吉田正先生(※)の吉田正門下に習って、水森英夫門下を作ったそうです。
そして、長年レギュラーをやらせていただいたニッポン放送があるのが有楽町で、以前、そのニッポン放送のイベントでこの歌を唄ったこともあったんです。
だから、紅白の時に、有楽町の街を眺めつつ『有楽町で逢いましょう』を唄いながら、これは必然だったんだな…と感慨深く、とても光栄なことだと思いましたし、この歌をここで唄うべくして僕は頑張ってきたんだ、とさえ思いました」

(※=『有楽町で逢いましょう』の作曲家、「吉」の正しい表記は“土”に“口”)

山内惠介「紅白の時に、有楽町の街を眺めつつ『有楽町で逢いましょう』を唄いながら、これは必然だったんだな…と感慨深く、とても光栄なことだと思いました」

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星を目指す…僕はまだこれからの歌手なんです

山内惠介「星を目指す…僕はまだこれからの歌手なんです」

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幼馴染の友達3人と

今年のお正月は故郷・福岡に帰られましたか?

「お正月ではないんですが、1月9日が母の誕生日なので、今年も母の誕生日を祝うため福岡に帰りました。
で、今年は何10年ぶりかで小学校から高校を共にした幼馴染の3人に逢ったんです。
福岡に着いて空を見上げた時に、突然、その3人の友達に会いたくなって、電話したら来てくれたんです。
3人とも結婚して子供がそれぞれいて、久しぶりに逢えて青春に戻れて、感動しました」

小学生くらいの同級生だと、素の自分に戻れますよね。

「はい。幼馴染ですから、もう会話がストレートです。
〝お前、紅白の出番が早いけん、全然見れんちゃねぇ〟〝惠介もまだまだやね〟とか言われ放題(笑)」

楽しそう(笑)。

「楽しかったです。
それに〝惠介もまだまだ〟と言われて、そう、俺、まだ大ヒット曲ってないから、これから大ヒット曲を出すんだ…と、そういう会話で改めて意欲が沸いたんです。
前向きな意味で、僕は大ヒット曲という星を目指す、まだこれからの歌手なんです。
もちろん今年も新曲で大ヒットを狙っていますけど、これからも自分の歩幅で、足元を固めながら、大ヒットと大ブレイクを前向きに目指していきたいです」

山内惠介「大ヒットと大ブレイクを前向きに目指していきたいです」

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同級生からの言葉

若い頃の友達っていうのは、年齢を重ねると、よりその貴重さを感じたりしますよね。

「それで思い出しましたけど、実は昨年末に、今は結婚して、子供も生まれて、とても幸せになっている中学時代の女性の同級生と、たまたま電話で連絡する機会があったんですね。
その女の子は中学の頃にいじめられて、不登校の時があったんです。
で、その子から〝あの時、辛くて、死のう…と思った時があったの。
でも、その時に山内くんの言ってくれた一言で思いとどまったんだ〟と言ってもらったんです。
実は僕が彼女に何を言ったのか覚えてなくて、そう言われて驚いて、それを聞くこともできなかったんですが、その同級生が今、すごく幸せになって良かったなぁ…と、とても嬉しい気持ちになったんです」

そんなことがあったんだ。

「人が幸せになるのは、僕も嬉しいことです。
だから、自分はせっかく歌手にしてもらったんだから、誰かを幸せにするように唄いたい…と改めて思いました。
歌は人の命さえ救えるくらいの力がある…だから自分もそういう歌を唄えるくらいに頑張ろう、と、その同級生の言葉で感じたんです」

365日、紅白と同じ気持ちで

最後に今の思いを。

「売野雅勇先生が僕に寄せてくれた文章で〈激しさも、情熱も、艶も、華やかさも、まごころがなくては輝かないということを、山内惠介さんはいつも唄っているように感じます〉と書いてくれましたけど、歌は真心があってこそ、ですよね。
例えば紅白歌合戦って、ファンの皆さまが僕にくださったプレゼントみたいなものですから、みんなが作ってくれた1分1秒を無駄にできないと、紅白の時は、真心を全身全霊で込めて唄うんです。
でも本当は、その紅白のステージと同じ気持ちで、365日唄わないといけない。
疲労で喉が涸れても、真心さえ重なっていれば良い歌が唄える。
逆に、いくら声が出ていても、真心が離れていたらダメです。
だから365日、毎日、真心を込めて、全身全霊で歌を届けていきたいです」

誰かを幸せ♡にするように唄いたい…

山内惠介「365日、毎日、真心を込めて、全身全霊で歌を届けていきたいです」

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※本インタビューは、「歌の手帖」2022年5月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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