石川さゆり

(C)UTANOTECHO Inc.

※本インタビューは、「歌の手帖」2017年3月号収録の文章を当時のまま掲載しております

石川さゆり今年のデビュー記念日の3月25日に、45周年を迎える石川さゆり。そして本誌では40周年以来となる巻頭インタビューにご登場いただき、彼女の今の思いをたっぷりと語ってもらった。


撮影/尾木 司

石川さゆり

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2017年は「連」

さゆりさんは40周年の時に本誌の取材で「40周年は落ち着いてしまう年ではなく、楽しい事に正直に進んでゆく年にしたい」と語ってくれましたが、この45周年はどんな年にされたいですか?

「40周年の時に、色々な事を楽しく作ってみた…と思っていた気持ちが、ずっとつながっていて、アッという間に時間が経ち、45周年がやってきた…今、そんな感じなんです」

40周年の時の思い、その火が今もずっと燃え続けている?

「そうですね。実は昨日、テレビ番組の収録がありまして、2017年の漢字一文字を、それぞれの出演者の方が書く、という企画があったんですけど、私は“連”と書いたんです」

連なる…の“連”?

「はい。皆さまに楽しんでいただきたい…という思いで、色々なタイプの作品を1曲ずつ唄ってきましたら、それが止まることなく連なって、いつの間にか45周年というところまで来た…そう思うんです。だから、この連なりはまだまだ続くんだろうなぁ、と感じますし、今まで作ってきたものの連なりの中に、より面白いことが見つけられそうな何かがある…そんな気がするんです」

石川さゆり

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18歳の『津軽海峡・冬景色』

昭和48年3月25日に『かくれんぼ』でデビューして、『津軽海峡・冬景色』(昭和52年)が出るまでの4年間、三橋美智也さんに民謡を教わり、二葉百合子さんに浪曲を習い、そして花柳流の日舞も学んで芸を磨かれた…とお聞きしています。それはさゆりさんが高校生くらいですよね?

「はい。16、17歳くらいですからね。自分が小学校から中学校の時は、同世代はGS(グループサウンズ)とかを聴いていましたけど、そんな時代に浪曲や民謡と出会って、それはすごく衝撃的でした。日本ってこんな恰好いい音楽があるんだ!と。そして、自分が芸の世界で生きて、色々なものを探っていると、そこには文楽もあり、義太夫もあり、新内も長唄あり、三味線も鼓も…と、どんどん伝統ある日本の芸能と音楽に惹かれていったんです」

ところで『津軽海峡・冬景色』を発売したのは、さゆりさんが19歳の時ですよね?

「レコーディングした時は18歳だったんですけどね(笑)」

18歳のさゆりさんが『津軽海峡・冬景色』で、日本の心、演歌的なものを表現しているのを聴くと…その早熟ぶりと言うか…改めて凄いなぁ、と思うんです。

「私はあの時、ひたすら、しがみついていましたから。阿久悠先生と三木たかし先生に作っていただいた歌にしがみつくように、無我夢中で、ただ一所懸命に唄っていました」

『津軽海峡・冬景色』の主人公は、何歳くらいだと思います』
「阿久先生はそういう年齢設定を、あの作品ではしていないように感じます。だから逆に『津軽海峡・冬景色』は、歌い手と共に主人公が年齢を重ねて成長し、歌詞とメロディーは変わらなくても、歌の景色は唄う年齢と共に変わっていく作品になっていると思うんです」

石川さゆり

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良い面構えの歌です(笑)

45周年記念曲は、デビュー記念日の3月25日に発売予定ですね。
「まだ詳しいことは言えないですが、良い面構えの歌ですよ(笑)。記念楽曲らしい作品が出来上がりました。また、夏頃に発売を予定しているアルバム『X─Cross ─』のレコーディングも進んでいます。『X─Cross─』(※注1)は、阿久悠先生、三木たかし先生、吉岡治先生と、私が今までお世話になった先生方が亡くなられ、“これからは作品をさゆりちゃん自身が探さないといけないわよ”と、吉岡治先生の奥さまから言われたのをきっかけに作り始めたんですが、それが脈々と面白い連なりとなって、今年の新作も面白い顔ぶれで、すごい素敵な楽曲が揃ってきました。とにかく45 周年も色々な発信をしてゆきたい と思っています」

2017年1月6日から25日まで、大阪新歌舞伎座にて「開運招福 音楽祭」(※注2)という特別公演を開催されていますね。

「1部『歌の福袋』は、演出構成の方がいらっしゃって、邦楽器奏者の皆さんと、“日本の音楽って、こんなに格好いいんだ”という、お正月らしい賑やかで楽しい世界を作っていただいています。2部のオンステージは私がスタッフと共に考えて、“これぞ石川さゆり”という作品を並べていますが、せっかく1部で邦楽器の方々とご一緒させていただいているので、いつもの石川さゆりの歌に、琴や三味線、琵琶、鼓だったりの邦楽器をフィーチャリングしていただいているんです。例えば『あぁ…あんた川』も、琴を随所に入れながら、唄ってみようと思っています。ぜひ観に来て、楽しんでいただきたいですね」

陸亀の笑ちゃん

さゆりさんのお宅には、陸亀のペットがいらっしゃるとか?
「陸亀の笑ちゃん。お家に来て、もう20年くらい経つのかな」

飼ったきっかけは?
「友達のお家でクリスマス会をした時に、そこに亀がいて、“うわっ、可愛い!”って言ったら、帰る時にそこのご主人が、“メリークリスマス!”って言って、ペットショップで買った亀にクリスマスのリボンをつけて、プレゼントしてくれたんです(笑)。我が家に来てからは、正月には水引の飾りを巻いてあげたりしています(笑)」

亀には癒されます?

「亀だけじゃなくて、うちには猫もいるし、犬もいるし、嫁に行かない娘もいるし(笑)、おばあちゃんもいるし、すごい賑やかなんです(笑)」

色々な命がいらっしゃる(笑)

「♪僕らはみんな生きている~という感じですよ(笑)」

(※注1)椎名林檎や奥田民生、森山直太朗や宮沢和史など、ジャンルという垣根を越えたアーティストが集まり、石川さゆりとコラボレ
ーション。ボーカリスト・石川さゆりの真骨頂が冴える人気アルバムシリーズ。『X‐Cross‐』は’12年発売、『X‐CrossⅡ‐』は’14年発売
(※注2)「石川さゆり2017 開運招福音楽祭」は大阪・新歌舞伎座にて、1月6日から25日まで開催。

水俣病患者の方々とのご縁

昨年は故郷の熊本で大きな地震があったことで、さゆりさんもいち早く義援金などを募り、歌で支援をされていますが、東日本大震災の時も頻繁に現地へ足を運ばれていましたね。

「今も東日本大震災の時の、東松島の皆さまをはじめ、被災地の方々とのご縁は続いているんです。もちろん今でも行き来をしていますし、メールをいただいたり、季節になるとサンマを送っていただいたり…このご縁は、心から嬉しいものです」

ご縁と言えば、今から約40年前、故郷・熊本の水俣病患者の方々の為にステージを行ったさゆりさんが、今年の2月、また彼らの前で唄う機会があるそうですね。

「はい。昭和53年に、20代の水俣病胎児性・小児性患者さんたちが集まり“石川さゆりを招(よ)ぶ若い患者の会”というのを発足してくれたんです。それは水俣病の患者だった方が20歳になった時、“20歳は一般的には成人で、そろそろ社会に出る年齢ですが、僕達はこれから先もみんなにお世話になって生きていかなくちゃいけない。そんな僕らでも何か一つ、大人の入り口に立ったというのを感じたい”という思いから、水俣病の寝たきりの患者さん達に、石川さゆりの歌を聴かせたい…と、彼らが自分達の力で私の歌謡ショーを企画して開催してくれたんです。そんな彼らも今年で60歳の還暦に…だからまた、2月には水俣へ伺い、彼らを前に唄わせていただくんです。そうやって、自分に出来ることはやらせていただきたいですし、それでご縁をつなげさせもらえるのは、歌い手としてとても幸せで、ありがたいことだと思います」

石川さゆり

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50周年は考えていません(笑)

45周年は50周年という大きな節目へ向かう、大切な年になりそうですか?

「正直言って、50周年は考えていません(笑)。20周年とか30周年の頃は、40周年を目指して…みたいな気合いはありましたけど、40周年を超えたあたりから、何十周年を目指そう!というのはなくなりました。今、50周年を目指す…というのは正直、考えなくなりましたね。自分が面白いと思うことを、皆さまが喜んでくださったり、感動してくださったり…そういうことをやり続けていきたいですし、それが出来ないと思ったら、きっと終了なんでしょうね。45周年を超えたら、そういう思いでやった方が良いんじゃないかな。自分がそれくらいの思いで、もっとアンテナを立ててやらないと、やっている意味がないかな、と思うんです。そして、それに対して自分がどれだけベストをつくせるか…その積み重ねなんだと思います、この45周年からは」

新たな地平に立った思い?

「そうですね。自分がベストをつくせる…と思えた時は、また次があるんでしょうし、そうじゃなくなったら終了…という厳しさを自分に課せた方が良いかな、とも思います」

最後に、今、石川さゆりである、ということで大切なものは?

「やはり、高倉健さんじゃないですけど(笑)、不器用なので、一所懸命に唄うことですね」

さゆりさんが不器用とは思えないですよ。

「本当に不器用ですよ。だからこそ、皆さまにお届けしたい、と思うことに対しては、夢中になって、探して、食いついて、自分の中に落とし込んで、そしてお届けする…というのが私らしさ、だと思います。そして今、面白いことがたくさん見つけられているので、確実にしっかりとそれを伝えられるように、スタッフと共に頑張っていきたいと思います」

石川さゆり

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※本インタビューは、「歌の手帖」2017年3月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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