水森かおり

(C)UTANOTECHO Inc.

※本インタビューは、「歌の手帖」2017年7月号収録の文章を当時のまま掲載しております

キラキラと☆ ─ 水森かおり

前作『越後水原(すいばら)』のロングヒットを受けて、待望の新曲『早鞆(はやとも)ノ瀬戸(せと)』が遂に発売された。
今回の舞台は山口県下関市。
そんな新曲への思いを、たっぷりと伺ってきた。

撮影/浅見健一

耳に残るフレーズがいくつもある歌なんです

水森かおり

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引きずりたかった


前作『越後水原』はロングヒットとなりましたね。

「初めて『越後水原』を聴いた時、“きたっ!”と思ったんですよ。
今までと違う何か…ワクワク感みたいなものが、確実にあの歌にはあって、そのワクワク感は1年経っても変わらずに、むしろ高まっていったようにさえ感じます」


カラオケでも多くの方々に唄われました。

「自分が思っていた以上の反応がありましたから、それもすごく嬉しかったです」


その『越後水原』が好評だっただけに、いつもより新曲の発売がちょっとだけ遅くなりましたが、ついに『早鞆(はやとも)ノ瀬戸(せと)』が5月2日に発売。

「これはあくまで個人的に思っていた事なんですけど、『越後水原』の後の作品は、『越後水原』を良い意味で引きずりたかったんです。
曲調をガラッと変えて、ではなく。
もちろん作品を頂いて唄う立場ですから、私の希望を言ったワケではないんですけど、出来上がってきた作品が『早鞆ノ瀬戸』だったので、その願い通りになりました」


新曲『早鞆ノ瀬戸』にも前作『越後水原』のようなワクワク感があった?

「はい。なにしろ唄い出しの♪渡れ~から、いきなりファルセットのメロディーになっていまして、ドキッとしました。
また♪早鞆ノ瀬戸~で1小節長く伸ばすフレーズがあったりと、耳に残るフレーズがいくつもある歌なんです」

同い年


新曲『早鞆ノ瀬戸』の作詞は(水森の)シングルのA面では初めてとなる、たきのえいじ先生。

「たきの先生が教えてくれたんですけど、“弦哲也さんから、これから1ヶ月は水森かおりの事だけを考えて、歌詞を書いてほしい…と言われたんだよ。弦さんは、かおりちゃんの事を本当に大切に思っているんだね”と。弦先生が、そんな事を言ってくださったのは嬉しかったですし、“弦さんの言葉に応えるためにも、俺も必死に書いたよ”とおっしゃってくれた、たきの先生の思いも嬉しかったです」


『早鞆ノ瀬戸』の舞台は山口県下関市。“早鞆ノ瀬戸”は、関門海峡の最狭部で、幅が約650メートル。
潮流が最高8ノットに達する航行の難所。
でも、この呼び方は、山口県の方でも知らない方がいらっしゃるようですね。

「そうみたいです。
だから、このタイトルから瀬戸内海の歌だと思われる方もいらっしゃいましたね。
それで3番の歌詞に、関門海峡という分かり易い地名を入れる事になりまして。
また、最初は“ノ”が平仮名の“の”で『早鞆の瀬戸』と表記してあったんですけど、調べると“ノ”が現地の正式な表記だったんです。
でもノは/(スラッシュ)にも見えてしまいますし、どうなんでしょうね?となったんですけど、やはり現地の正式な表記にしましょう…と“ノ”になったんです」


関門橋が開通したのは1973年で、水森さんが産まれた年。

「それは、すごく感慨深いです。だから関門橋と、お互いにがんばろうね!みたいな感じです(笑)」

命を捨てようとさえ思った場所が、希望の場所へと変っていく…

水森かおり

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深い絶望から希望へ


レコーディングで注意したのは?

「聴かせどころのポイントがいっぱいある作品なので、すべてのポイントを頑張りすぎると、何が言いたいか?の焦点がぼやけて、伝わらなくなってしまいそうなので、そのポイントの置き方、バランスの取り方に注意をして唄いました」


これまでの水森さんの作品とは、ちょっと主人公の感情が異なって聴こえます。

「今までは、恋に破れた女性が、綺麗な景色を見て、励まされて、癒されて、明日へ向かって頑張る力を、その土地や人々からいただく…という物語が描かれていましたし、新曲も基本はそうだと思うんです。
でも、頭の2行を読んだ時、この歌の女性は自分の絶望した気持ちを、ここで終わらせよう…命を絶ってしまおう、と思うくらいの壮絶な覚悟で、この場所にいるんじゃないか、と感じたんです。
実はプロモーションビデオの撮影で、早鞆ノ瀬戸へ行った時に、福岡県と近かったのを実感したんですけど、潮の流れがすごく速いので、近いのに遠く感じたんです。
それでも、この歌の主人公は冒頭で、海を渡れるものなら行きましょう…と言っている。
それは、ここで身を投げても良い…と思う覚悟で、早鞆ノ瀬戸の前で立ち尽くしているからではないか?と。
その女性の気持ちが、今までの作品と私も違うと思いました」


確かに1番の歌詞は、いつもの作品より、女性の絶望感を深く感じます。

「でも3番の最後では、♪夕陽もやがて~朝陽に変わる キラキラと~となっているんです。こんなに1番の冒頭と、3番の最後の温度感が違う…つまり、命を捨てようとさえ思った場所が、希望の場所へと変っていく…今までとは違う、死と生が背中合わせの立ち直り方。でも唄い終わると、彼女が生きることを選んだ意思が、とても胸にジンとくるんです」

タイプAとBのカップリング


今回も『早鞆ノ瀬戸』にはタイプAとタイプBがあり、それぞれカップリングも違いますが、まずはタイプAの『宇和島別れ波』。

「『早鞆ノ瀬戸』でガーッとスケール大きく唄い込んだ後に、『宇和島別れ波』を聴くと、ちょっとホッとするような演歌ですよね。
これはカラオケで初心者の方も楽しんでいただける作品だと思います」


カラオケのアドバイスがあるとしたら?

「けっこう、ゆったりとしたリズムのメロディーなので、気持ちが走らないように、ゆったりとリズムに乗って唄ってもらいたいですね。また、最後の♪哀しい~を“かなしい”と唄うのではなく、“かなしー”と、“い”を唄おうと思わないで、“し”の母音を自然に伸ばすように唄った方が良いと思います」


タイプBのカップリング『花の東京』は日本橋、浅草、スカイツリー、屋形船…という東京の名所・名物が出てくる楽しい作品。

「こういう、いかにもTHEご当地ソング、という歌は初めて。本当はこれ、もっと音頭っぽかったので、♪ソーレ~みたいな掛け声を、私と弦先生とミュージシャンの方で録音したんですけど…最終的に“やっぱ、これ、いらないね”とカットになりました(笑)」

関門海峡を泳ぐ?


今年の8月12日には水森さんと、後輩の岩佐美咲さんとはやぶささんの3組で、長良グループ演歌まつりをブラジル・サンパウロで開催します。

「ブラジルと日本の架け橋になるようなことが、何か出来たら良いなぁ、と思いますが、どういう反応になるか? 期待半分、不安も半分…でもすごく楽しみです」


4月16日には沖縄で初の長良グループ演歌まつりを開催。
沖縄の方は演歌をあまり聴かない、と言われている事もあり、今まで演歌歌手はなかなか沖縄へは行かなかったですけど、すごく盛り上がったそうですね。

「皆さま、食い入るように観てくださって、すごく楽しくて、すごい嬉しかったです」


その沖縄公演のスポーツ新聞の記事では、水森さんが「水着になりたい」と(笑)。

「もちろん冗談ですよ(笑)…でも、歌の手帖さんのグラビアでやりますか?(笑)」


(笑)水着と言えば、昨秋のスペシャルイベントでは、ウェットスーツ姿を披露。
あの時、ウェットスーツは水着以上にスタイルが出るので恥ずかしい、とおっしゃっていましたけど、スタイル良いですよね。

「いえいえ…ダイエットしておけば良かったなぁ、と(笑)」


そのイベントでは、高さ107メートルから垂直落下するフリーフォールにも挑戦しましたが、あれだけ怖がって泣きそうになっていた水森さんを初めて見ました。

「ジェットコースターは怖くないんですが、フリーフォールは初めての経験で、あれは本当に怖かった。
それなのに2回もやらされて…冗談じゃないよ~!と(笑)」


新曲のイベントでは、今秋、何にチャレンジしますか?

「関門海峡を泳ぐとか?(笑)。
でも潮の流れが速すぎて、オリンピックの水泳選手が挑戦したらしいですけど、流されて泳げなかったそうなので、私は絶対に無理(笑)。
そう言えばファンの方々から、もう危ない事はやめてください、と心配の声をいただいていますが、意外に自分はそういう挑戦も好きなんですよね(笑)」

最後にはキラキラと輝く良い1年にしたいです

水森かおり

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最後にはキラキラと


最近、プライベートでやっていることは?

「ないですねぇ…プライベートはつまらない女なんです(笑)。
でも先日『特捜最前線』の再放送がやっていて、出演者が豪華で見入っちゃいました。
二谷英明さん、西田敏行さん、大滝秀治さん、藤岡弘さんとか。
その中に、すごい素敵な方がいて、荒木しげるさんって俳優さん。
調べたら、残念ながらもうお亡くなりになられたそうなんですが、つい最近『水戸黄門』の再放送を見た時も、その方が出演されていて…あらっ、出会っちゃった♡と、ときめきました」


(笑)さて、今年も『早鞆ノ瀬戸』で忙しくなりますね。

「前作『越後水原』では50ヶ所、80回くらいのキャンペーンをしたんですけど、それくらいやっても、絶対に“初めまして”のお客さまもいらして、“私もまだまだだなぁ、もっと頑張らないといけない”…と更にやる気も出てくるんです。やはり自分が自ら足を運んでお客さまのところへ行く、そういう動きを今年も大切にしてガムシャラに頑張りたいです。そして前作の最高の流れを引き継いで、最後にはキラキラと輝く良い1年にしたいですね」

※本インタビューは、「歌の手帖」2017年7月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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