(C)UTANOTECHO Inc.
※本インタビューは、「歌の手帖」2018年5月号収録の文章を当時のまま掲載しております
坂本冬美のニューアルバム『ENKAⅡ~哀歌~』(2017年10月25日発売)に収録され、同時発売でシングル化もされた五木ひろしとのデュエット『居酒屋(ニューバージョン)』。
実はその前から、この話があったと言う。
きっかけは五木ひろし特別公演
昨年の大阪・新歌舞伎座での五木ひろし特別公演(6月24日~7月23日)に、坂本冬美が特別出演。
その公演前に五木と坂本で「オリジナルのデュエット曲を制作しよう!」と話が盛り上がったのだとか。
そして制作陣の「演歌の枠にとどめず、幅広い世代の方々に聴いてもらいたい」という思いから、ポップス・グループ〝いきものがかり〟の水野良樹氏に楽曲制作を依頼した、と言う。
「五木さんもポップス系の作家さんが良いんじゃない?と言ってくださった中、〝大人の歌を書いてみたい〟と水野さんが希望されていたことから、自然の流れでこの話が決まったみたいです」
そういう経緯で生まれたのが、五木ひろしと坂本冬美のオリジナル・デュエット曲『ラストダンス』。
平成の『居酒屋』に!
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新たな風を取り入れた『ラストダンス』は、これまでの演歌・歌謡曲とは確実に違うデュエットだが、そこから大きくは逸脱していない。
例えば演歌・歌謡曲のスター2人がポップスに挑戦、という単純な図式ではなく、まさに平成の流行歌、の感触と言えるだろう。
「ポップス系の若い方の作品って、リズムが速かったり複雑だったり、唄っていて体力いるじゃないですか(笑)。
でもこの歌はそうではなく、心地よいリズムで、私にも自然にピタっとハマりましたね」
とは言え、リズムや曲の構成は、最近のポップスの流れにある。
「歌詞が長くて、間違えないかしら?と不安ですし(笑)、演歌のように同じフレーズが続かなくて、追っかけて唄うフレーズも1番と2番で同じ字数じゃなかったり、演歌歌手の私には難しいところはあります。
でもそれは、やり甲斐のある楽しい難しさ。
カラオケで演歌・歌謡曲がお好きな方も、ぜひ挑戦してみてほしい。
クリアできたら絶対に楽しいですよ」
挑戦という未知の道
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両A面となる『雨の別れ道』は作詞・松井五郎氏による、大人の切ないラブソング。「デュエット曲ながら、これはソロとしても唄える作品。
五木さんがいない場合でも、私一人で唄えるような、とっても良い曲。
五木さんも〝俺もアルバムに入れようかな〟とおっしゃっていました」
五木ひろしと坂本冬美の声質の相性は良く、ユニゾン、ハモリの掛け合いも絶妙だ。
「レコーディングは五木さんと一緒に唄ったんですけど、冷静に考えると怖い事ですよね(笑)。
だって私が子供の頃からスターだった歌謡界のレジェンド・五木さんとデュエットしているんですから。
でもそれは大変光栄なこと。
五木さんも〝昭和の『居酒屋』、平成の『ラストダンス』にするんだ!〟と力を入れてくださいました」
それにしても、王道の演歌を歩きながらも、彼女はこういう挑戦で我々を常に楽しませてくれる。
「やはり、保守的になっちゃいけない、と思うんです。
だから憧れの石川さゆりさんが椎名林檎さんの歌を唄われたりして、チャレンジしてくださるのがすごく励みになるんです。
先輩方が未知への道をつけてくださると、後輩の私達はその道を行き易いですし、今度は私が後輩方に道をつなげていかなくちゃいけない、と思うんです」
『ラストダンス』の先にある道は、きっと新たな坂本冬美、へと続いている。
撮影/村田弘司
※本インタビューは、「歌の手帖」2018年5月号収録の文章を当時のまま掲載しております