挑戦と原点 島津亜矢
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※本インタビューは、「歌の手帖」2019年3月号収録の文章を当時のまま掲載しております
本誌、久しぶりの巻頭登場となる島津亜矢。〝えん歌の申し子〟としてデビューした彼女だけに、演歌歌手としての圧倒的な歌唱力は今更言うまでもないが、最近は演歌の枠を飛び越え、好評なアルバム『singer』シリーズや、東京オペラシティでの演歌封印のコンサート、アニメ主題歌の歌唱、NHK紅白での『The Rose』(年)、『時代』(年)など、様々な挑戦で歌手としての魅力を増幅し続けている。
撮影/笹井タカマサ
楽しかった2018年
新曲『道』のヒット、年間本以上のコンサートツアー、そして5度目のNHK紅白など、2018年も好調な1年でしたね。
「お蔭さまで毎年、1年の終わりに〝今年も充実した1年だったなぁ …〟と思えている事に対して、支えてくださるファンの皆さまのお蔭だと心から感謝の気持ちでいっぱいです。そして2018年は更に忙しく、色々なことに挑戦させていただき、とても楽しい1年でした」
2017年に続いて、クラシック専用のホールである東京オペラシティでの、演歌封印のステージは素晴らしかったです。
「ありがとうございます。その東京オペラシティのコンサートや、演歌を唄わない番組にも色々と出させていただいたりして …最近、演歌を唄っていないなぁ …と感じたりもするんですが(笑)、それは、今はとてもありがたいことだと思っているんです。もちろん私は演歌歌手ですが、色々な事に挑戦できる環境というのは、そんなに簡単に頂けるものではないですし、私の根底にある演歌とは違う面も出させてもらえる、というのは、素直にとっても楽しいことなんです」
ニューアルバム『 singer5』
第60回日本レコード大賞の企画賞を受賞したアルバム『singer5』。その『singer』シリーズでは、色々なジャンルの、様々なタイプの名曲を、洋楽も含めて島津さんがカバーされていて、改めてシンガーとしての島津亜矢さんの凄さを感じさせてくれます。基本は高い音も地声でいって、ちょっとした色使いでファル セットも繊細に入って …。
「実はデビューした若い頃は、ファルセットと低音が苦手だったんです。だから当時、例えば田川寿美さんの綺麗なファルセットと低音がすごく羨ましかったんですよ。だけど年齢と共に、低音もファルセットも徐々にですけど、使えるようになってきました」
『singer』シリーズの選曲は島津さんですか?
「私は選曲に関してほとんど言わないんですが、普段の生活の中でピンときた歌があった時、唄ってみたいな …と思うことが時々あって、それを言うこともあります」
『singer5』で島津さんが「唄ってみたい」と言った歌は?
「中島みゆきさんの『誕生』です」
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生き様としての歌
『singer』シリーズでは必ず中島みゆき作品が収録されていますね。
「昔から中島みゆきさんの歌の世界観はすごいとは思っていたんですけど、数年前から、みゆきさんのライブにも足を運ぶようになりまして、更にその凄さを実感しました。
淡々と唄っていながらも、その中に力強さや優しさや哀しさが、とても豊かな歌の表情となって伝わってくるんです。あれこそが、生き様としての歌なのかな…と。
昔、私がデビューした頃、先輩方から〝若い時は声が出るだけで良いけれど、人生の勉強を積み重ねていった時に、どんな味のある歌を唄えるかが勝負なのよ〟とよく言われていたんですけど、みゆきさんのステージを観て、こういうことなのかな?と、先輩方の言葉を実感しました。
どう自分が生きていくか? 何を感じて生きていくか?が、年齢を重ねた時にそういう深みとか味わいが歌に出るのかな?と …。だから私も人間として歌手として、もっともっと勉強していかなきゃな、と感じます」
挑むということの素晴らしさ
2017年にはアニメ映画「機動戦士ガンダム」の主題歌『 I CAN’T DO ANYTHING─宇宙(そら)よ ─』も唄われましたが、そういう挑戦から得られるものとは?
「…達成感ですかね。本当に私にとってはハードルの高い挑戦をさせていただけることが多いので、私にそれができるだろうか?とまず思うんです。でも、やるしかない、となって、それを自分なりにやり遂げられた時〝この挑戦をして良かった〟 …という、言葉では言い表せないような嬉しい感覚を最後に持てるんです。そして、もっともっと挑戦したい、と気持ちが高まる…それが、挑むということの素晴らしさだと思います」
挑戦し続ける島津亜矢さんですが、それで島津さんの歌を聴きに来るお客さまの層が変わった …と思う事はありますか?
「はい。演歌を唄っていないテレビの歌番組に出演させていただいた事で、そういう番組を見た若いお客さまや、アルバム『singer』を聴いて、〝この歌が聴きたい!〟とコンサートに足を運んでくださる40代から50代くらいのお客さまが増えましたね。昔はセリフ入りの名作歌謡劇場が聴きたい …というようなお客さまが多かったんですが、最近は例えば〝玉置浩二さんの歌を聴きたいから来た〟という方もチラホラいらっしゃるようになりました。そういう意味でも、幅を広げていただいているなぁ、と感謝しています」
演歌という故郷
「えん歌の申し子」としてデビューされた島津亜矢さんですが、演歌以外の作品を唄うことによって、島津さんの核である演歌にフィードバックするものも大きいのでしょうか?
「演歌というのは人の人生や、人の心の枝葉を唄う、絶対になくならないジャンルの音楽だと私は思っているんですね。そして、様々な挑戦で、色々なジャンルの作品を唄った後、演歌という故郷に帰って演歌を唄った時、まずホッとしますし、一つひとつの言葉を噛みしめながら心を唄う演歌というものは、やっぱり良いなぁ …と、演歌の魅力を再認識できます」
今、その演歌をどう継承していきたいと思っていますか?
「演歌の継承 …いえいえ、私には怖れ多いことです。でも、常に第一線で演歌の世界を引っ張り続けてくださっている、私の大好きな北島三郎さん …その北島さんは、レコード会社も事務所も違う私を、いつも助けてくださるんです。そんな北島さんのように大きくて深い心をもった人間に私もなりたいと思いますし、北島さんの人としての思いは私もつないでいきたい …そう、いつも思っています」
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今、思うこと
最近、自分の歌以外で「この歌、良いな」と思った曲は?
「最近の歌ではありませんが、今『宙船(そらふね)』が良いなぁ、と思うんです。作者の中島みゆきさんバージョンと、 TOKIOさんバージョン、どちらも大好き。あの歌詞がすごく心に響くんです。それで2018年の東京オペラシティでも唄わせていただいたんです」
島津さんが今、観てみたいコンサートはありますか?
「だんぜん玉置浩二さんのステージですが、でも全然タイミングが合わなくて、玉置さんのコンサートの時に、私は仕事のスケジュールが入っていたりで、なかなか実現していません(笑)」
島津さん自身が今、自分に足りない…と思うものは?
「いっぱいありますけど …敢えて言うと、ゆとり、かな?
けっこう、せっかちなんです。それで、よく物を壊したりとか、ぶつかったりとか(笑)。だから、すこしゆとりを持って、毎日をすごせるようにしていきたいです(笑)」
どう自分が生きていくか?何を感じて生きていくか?
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挑む心を忘れず、一歩でも前へ!
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初の博多座・座長公演
1月15日から、福岡・博多座では初となる座長公演(※注)が行われます。博多座は島津さんの故郷・熊本県と同じ九州にありますし、2015年に行われた博多座での北島三郎さんの最終公演を観に行ったりと、島津さんにとって憧れの舞台だったそうですね。
「はい。しかも北島さんの最終公演となった博多座さんは、最後の千穐楽を観に行ったんです。その時、初めて一番前の席で観させていただいたんですけど、北島さんのファンの方に〝ちょっとこれ持って〟と言ってもらい、横断幕を一緒に持ったんです(笑)。本当に楽しかったですね」
9度目の座長公演は、その経験を活かされたお芝居になりそうですね。
「とんでもない、まだまだ自分は全然駄目で不安もあります。でも、ご一緒させていただく先輩の役者さん方によってお芝居は変るものだと思いますので、どんな風に変わっていくか?がすごく楽しみです」
第2部のコンサートでは、18年NHK紅白の歌唱曲『時代』(中島みゆき)も披露し、しかもラストでは北島三郎さんの『まつり』で華やかに幕を閉じる…。
「はい。私が大好きな北島さんの思いを何かつなぎたくて、北島さんが最終公演の博多座さんのラストで唄ってくれた『まつり』を唄わせてください …と、畏れ多くも選ばせていただきました」
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「島津亜矢 特別公演」(2019年1月15日~27日まで)■第1部「おりょう‐龍馬の愛した女‐」出演:島津亜矢、山口馬木也、目黒祐樹、池上季実子、芦川よしみ、田中健、前田耕陽他■第2部「島津亜矢コンサート ─劇場版スペシャル ─」
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▲12月16日、東京で行われた第1部の出演者の初顔合わせと、台本読み合わせの模様
故・星野達郎先生
今、島津亜矢さんが師匠・星野哲郎先生(2010年逝去)で思うことは?
「先生に教えていただいたことは、事あるごとに、色々な場面で、〝先生、こう言ってたなぁ〟とか、本当に今でも、ちょくちょく思い出すんです。昔、辛いことがあった時、私が泣いて先生のところに行くと〝お前の喉と根性さえ腐らなければ、なんとかなるから頑張れ〟と言って励ましてくださいましたが、その宝物のような言葉は絶対に忘れないです。
実は最近のコンサートでも先生の映像を流して、先生の歌を唄うコーナーがあるんですけど、今も先生がいなくなった気がしないんですよね。常に先生の存在を身近に感じて唄っている感じは、すごくあります」
最後に2019年への思いを、漢字一文字で言うと?
「心です。挑む心を忘れずにチャレンジしていきたいですし、もちろん応援してくださる皆さまの心も忘れず、今いるところから一歩でも前に進めるように頑張っていきたいと思います!」
※本インタビューは、「歌の手帖」2019年3月号収録の文章を当時のまま掲載しております