【歌の手帖2019年11月号】坂本冬美「男歌(これ)で、いいんだ!」巻頭インタビューより

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※本インタビューは、「歌の手帖」2019年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

男歌(これ)で、いいんだ!

『夜桜お七』や『また君に恋してる』など、色々なタイプのヒット曲を持つ坂本冬美だが、彼女の原点と言えばデビュー曲の男歌『あばれ太鼓』だろう。そして令和となって放つ最初の新曲『俺でいいのか』は、 これぞ冬美節!これでいいんだ!! と言えるような、原点の流れにある明るい男歌。しかも今の冬美だからこその艶や、心地よい哀愁が響いてくる注目作。新たな坂本冬美の魅力が、ここに誕生した。

撮影/笹井タカマサ

今の冬美の男歌

新曲『俺でいいのか』は、待ってました!とファンの方々から声がかかりそうな、冬美さんらしい男歌。

「先日、コンサートで初めて唄わせていただいたんですけど、昼の部を観てすぐにファンの方々が覚えて練習してくれたみたいで、夜の部では曲の途中で〝冬美!〟のコールを掛けてくださいました。でも、その掛け声に驚いて歌詞が飛んでしまって、もう一度唄い直させていただいたんですが(笑)」

冬美コールが入るような男歌は久しぶりですもんね。

「それこそ『あばれ太鼓』や『祝い酒』以来かな。デビュー当時から応援してくださっている方は、冬美コールを掛けたくてウズウズしていたみたい(笑)」

今回の新曲は男歌でいこう!という感じだったんですか?

「やはり令和になって最初のシングルですし、久しぶりに原点に戻ってというのはありました。ただ、50も過ぎましたし、10代の頃の力強い男歌ではないだろうと。歌手として年以上のキャリアを積んで、歳を過ぎた今、男歌でも若い時とは違う今だからこそ唄える、しっとり感のある男歌 …という方向性で作っていただきました」

男歌ながら艶がありますね。

「それでいて、哀しい歌ではなく、メジャー調で、唄っていて明るい気持ちになれる歌。男性の方にも女性の方にも、ぜひカラオケで唄っていただきたい作品です」

また、どこか師匠・猪俣公章先生のメロディーの匂いみたいなものがあるな、と感じました。

「はい。作曲の徳久広司先生も、きっとそれは考えてくださったと私も思いますね」

あっちではなく、こっち

坂本冬美 哀しい歌ではなく、メジャー調で、唄っていて明るい気持ちになれる歌。男性の方にも女性の方にも、ぜひカラオケで唄っていただきたい作品

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定番演歌の美味しい部分が無駄なく詰まっている歌で、しかも演奏時間が3分台というのは、すごく丁度良い長さだな、と。

「ねっ。テレビで唄う場合は基本的に2コーラスなんですが、でも(テレビ用に2コーラスに編集しても)どこもカットしないで、イントロもコーダ(終結部分)も聴いてもらえるんですよ」

なるほど。やはり流行歌は3分台が良いですよね。さて、新曲の歌唱でこだわった部分は?

「正直言えば、本当は私自身、もっとこの歌を演歌臭く唄いたかったんですよ。でも、どう頑張っても、私がイメージするド演歌的な臭い感じにはならなくて」

逆に言うと、新曲のようなド演歌もあまり臭くならないのが、冬美節の魅力とも言えるんじゃないでしょうか?

「ありがとうございます。そう言えば、徳久先生が仮歌の時に〝良かった、ちゃんと演歌も唄えるね。もう冬美は最近、あっちに行っちゃってたから心配してたよ〟とおっしゃってました(笑)」

あっち(笑)。確かに最近の冬美さんは、ド演歌が少なかったようなイメージはあります。

「30周年の『北の海峡』は演歌でしたけど、両A面の『愛の詩』が歌謡曲で、前作『熊野路へ』も演歌ではありましたが、吉幾三さんの作品をちょっとお洒落なアレンジにして、ド演歌とは言えなかったですからね。だからたぶん演歌ファンの方も、坂本冬美はあっちに行っちゃったと思っている方が多かったのかもしれません(笑)。でも新曲で、改めて、こっち(本流の演歌)の坂本冬美を届けていきたいです!」

たぶん基本の私は〝黙って俺について来い!〟タイプでも仕事になると…

坂本冬美 『北の海峡』は演歌でしたけど、ド演歌とは言えなかったですからね。改めて、こっち(本流の演歌)の坂本冬美を届けていきたいです!」

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男らしさと女らしさ

カップリング『男哭酒(おなきざけ)』は重厚なマイナー演歌で、冬美さんの声の表情、その濃淡が細やかにフレーズごとに変化して、聴き応えが有りますね。

「この歌は難しいです。音域も私の地声のいっぱいいっぱいで。〝ギリギリの音域で、楽な唄い方をさせたくない〟という徳久先生の御意向でした。でも、こういう難しい歌が好きな演歌ファンの方も多いと思いますし、腕に覚えのある方には唄ってほしい作品。でも私はステージでは唄えないかも、それくらい難しいの(笑)」

『男哭酒』も男歌ですが、今更ながら冬美さんは男歌が似合いますよね。お芝居でも、すごく男役がハマっていますし。でも冬美さんの盟友・藤あや子さんにお聞きすると「冬美ちゃんは私なんかより全然女らしい性格なのよ」と。

「それはあの方(あや子さん)がとても大胆な性格なので(笑)。私はチマチマしていて…」

ナイーブな性格で?

「自分では言いづらいですが(笑)」

お部屋も常に整理整頓していて、綺麗そうなイメージです。

「気になるところは、徹底して綺麗にしますよ。例えば水回り。ちょっとでも水垢とか水滴がついているのはイヤですね(笑)」

冬美さんの中での男っぽい部分と、女らしい部分は?

「たぶん基本の私は〝黙って俺について来い!〟タイプだと思うんです(笑)。細かいことは良いじゃない!と思う性格で。でも仕事になると、女々しく色々と考え込んでしまうんですよね。自分の中で、すごく両極端な部分を持っているな、と思います」

それは学生時代にソフトボール部でキャッチャーをやっていたから? キャッチャーって、細かく考えるポジションですし。

「それは関係ないかも。だって私、キャッチャーをやるのはイヤだったですもん(笑)」

恋愛のこと

本誌9月号のピンナップでは、「俺でいいのか、と言われたい!」と書いていただきましたが、実際にそう言われたいものですか?

「この歌の主人公の男性は〝本当に、こんな俺でいいのか?〟という控えめな気持ちで〝俺でいいのか?〟と言ってくれているので、そういう男性には言われたいですよね。威張っていたり、上から目線だったりするようなニュアンスがあったらイヤですけど(笑)」

実際に「俺でいいのか」ではないですが、そういうことを言われた経験も当然ありましたよね?

「ないことはなかったですし、結婚しようかなと思った方もいましたが、結ばれなかったということは縁がなかったんでしょうね。それに私自身どこかで、常に歌、仕事が一番という思いがあって、それを超える方がいなかったこんなことを言っているから、今も1人なんでしょうけど(笑)。それに50歳を過ぎたら、誰にも縛られない、自由な一人身の気楽さから離れられなくなっています(笑)」

ちなみに、冬美さんは惚れっぽいタイプですか?

「惚れっぽいというか、飽きっぽいかな(笑)」

趣味は…

坂本冬美 歌が一番 結婚しようかなと思った方もいましたが、結ばれなかったということは縁がなかったんでしょうね。

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とにかく今の冬美さんは、歌が一番なんですね。

「そうねぇ。これからどうなるんだろう。何か趣味を持っていないと、寂しい老後になるかしら?」

冬美さんの今の趣味は?

「ないから困ってるの(笑)。ゴルフも今年は1回も行ってなくて行かなければ行かないで平気ですし。仕事終わって、ワインやシャンパンを呑むことくらいかなぁ。身体のことを思ったら、たくさんは呑めないですけど」

シャンパンやワインのこだわりは?

「なんにもない(笑)。甘くなければ大丈夫。新幹線のワインでも美味しく頂けちゃいますから」

自然体なんですね。

「歌以外は、難しく考えていないかも。食事だって、ファミレスのハンバーグも好きですよ」

お料理は作られます?

「はい。特に朝ご飯は自分で必ず作りますね。今日もお魚を焼いて、アサリのお味噌汁と卵焼きを作って、(藤)あや子さんからもらった肉じゃがを頂きました(笑)」

ピン子さんのお墨付き

30周年からは半年に1回ペースで座長公演をされていますが、6月に行われた東京・明治座での座長公演は、泉ピン子さんの友情出演もあり見応えがありました。

「ピン子さんって、すごく情に厚い方で、公演が終わってからも日に1回くらい〝(公演が終わって)寂しいね〟って電話があるの(笑)。で、公演終了後1ヶ月くらいの間に3回ほど食事に一緒に行きました(笑)。そんなピン子さんが〝新曲は絶対に売れる!〟とおっしゃってくださいました」

ピン子さんのお墨付きですね。では最後に「〇〇でいいのか?」と今思うものは?

「常に、これでいいのか?と思いながらやっています。こんな唄い方で良いのかな? ちゃんとお客さまに届いたのかな?と。ステージにしてもテレビにしても、そう思って反省して考えながらやっています。きっと、ずっとそうなんでしょうね」

どんな仕事も突き詰めてやると、これでいい!と満足することはないんでしょうね。

「諸先輩方も〝唄っている限り、満足することはないわよ〟とおっしゃっていました。だから今後も、これでいいのか?と思いながら、少しずつでも前進できたら良いのかな、と思います」

常に、これでいいのか?と思いながら少しずつでも前進できたら、と

坂本冬美「ステージにしてもテレビにしても、常に、これでいいのか?と思いながらやっています」

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坂本冬美コンサート
■10月11日(金)千葉県 習志野文化ホール
■11月27日(水)富山県 オーバード・ホール
■12月7日(土)東京 町田市民ホール

★大阪新歌舞伎座 五木ひろし特別公演
坂本冬美特別出演
2020年1月9日~2月9日

※本インタビューは、「歌の手帖」2019年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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