【歌の手帖2020年2月号】伍代夏子「雪、滴り落ちる情感」 巻頭インタビューより、伍代夏子

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※本インタビューは、「歌の手帖」2020年2月号収録の文章を当時のまま掲載しております

2020年の元旦に発売される伍代夏子の新曲『雪中相合傘(せっちゅう・あいあいがさ)』は、冷たい雪の情景の中で、哀しい情感が熱く滴り落ちるような、とてもドラマティックな演歌。メリハリの効いた構成で、ヒット性も高そうだ。

そこで、この魅力的な新曲を読者の皆さまにもお薦めしたい意味も含めて、伍代に『雪中相合傘』への思いを語っていただいた。

撮影/尾木 司 (一部写真提供/伍代夏子)

2019年は交流の1年

相合傘のネズミ(干支)カップル。なお、伍代夏子は丑(うし)年

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▲相合傘のネズミ(干支)カップル。なお、伍代は丑(うし)年

前作『暁』は品格と威厳があって、かっこいい演歌でした。

「私としては、もっと広げたかった歌なんです。ただ毎回そうですけど新曲が出ても、当然、前作も大切に唄い続けていきますよ」


『肱川あらし』(’17年)は今でも唄われていますし、『暁』もロングセラーになりそうでは?

「うん、そうなってほしいですね。『暁』はステージで盛り上がる作品ですし」


2019年はどんな年でした?

「充実した良い年でした …と言っても、あまり悪いと思った年はないかな。そういう(良いことしか思い出さない)タイプなんです(笑)」


印象的だったことは?

「今年は歌手の先輩後輩との交流と言うか会合と言うか、食事会や飲み会が多かったかも。悦ちゃん(島津悦子)や詢子ちゃん(石原詢子)とかの女子会とか。あと美川憲一さんの会では、あやちゃん(藤あや子)と冬美ちゃん(坂本冬美)なんかと。色々な方とお酒を呑んで、無礼講で交流した1年でした(笑)」


伍代さんは社交的ですよね。

「ううん、そうでもないの。外だと気を使って疲れるから、あまり出ないタイプなんですけど、今年は多かったですね。そして歌手仲間とお酒を呑んで、ストレス解消になったように思います」

懐かしい気持ち


新曲『雪中相合傘(せっちゅうあいあいがさ) 』はカラオケでも人気が出そうな、メリハリの効いたドラマティックな演歌です。この新曲が生まれた経緯は?

「最初に作詞の池田充男先生が決まりました。私のシングル曲では、池田先生は初めてなんです。池田先生の歌詞は綺麗でドラマティックですから、そういうのを描いていただくなら、曲は弦哲也先生かな、と。弦先生は『夜明け坂』(2009年)以来ですね」


池田先生は初なんですね。

「はい。でも私がテイチクのレッスン生だった頃、池田先生が当時テイチクの専属だったので、レッスンで池田先生の未発表曲を何度か唄う機会があったんですよ。で、その時に何度も池田先生の手書きの歌詞を見ていたんです。だから今回の新曲で、何十年ぶりかに池田先生の歌詞の手書き文字を見て、すごく懐かしい気持ちになりました。そして、その時から池田先生の歌詞の素敵な世界観を知っていましたから、池田先生にやっと書いていただけた …と感慨深かったです」

実はハッピーエンド

2020年の元旦に発売される伍代夏子の新曲『雪中相合傘(せっちゅう・あいあいがさ)』。伍代さんの思う、池田先生の歌詞の特徴はなんですか?

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伍代さんの思う、池田先生の歌詞の特徴はなんですか?

「小説的というか、文学的な世界観を持っていて、唄っていても歌の映像がイメージし易いの。『雪中相合傘』も歌詞を読んで、風がビュービュー吹いて、雪の中をザクザクと歩く音が聴こえてくるくらい、あっ、この世界観ね、とすぐイメージできたんです。また歌の中では、生きてみせます …と言っていますけど、私には、この2人は死んでしまうな…と感じられたの。吹雪の中で、死ぬ覚悟と言うか…もっと言うと、生きていくよりも、きっと2人で死んだ方が幸せだ、というくらいの常軌を逸する激しい感情。そういう入れ込み方で、私はレコーディングに臨みました」


感情をより突っ込んだ歌唱?

「その思いこみ方で、唄い方は自然と変わるんですよ。歌は感情だと私は思っています。で、この歌の私のイメージは、吹雪の中、2人で1つの傘を前にさして、雪をかきわけて歩き、最後は雪の中に2人でバタッと倒れ、赤い傘の先が白い雪から出ている…というラストシーン。だけど、それは不幸ではなく、とっても幸せなラストシーンなんです。例えばフランダースの犬や、マッチ売りの少女のように、天使と共に召されていく感じのラストと言いますか」


不幸そうな終わり方ながら、精神的にはハッピーエンド?

「そう。お花畑と、空に虹が浮かんでいるような天国に行くの。究極の幸せの場所。この新曲は、そこに向かう2人の歌 …というのが私の解釈。その私のイメージを弦先生、編曲の南郷達也先生にお伝えして、音にしていただきました」

夜に書いた手紙のように

「朝書いた手紙と、夜書いた手紙のような2パターンの唄い方をしてみた」と語る伍代夏子

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そういうイメージを持って唄うことが大切?

「ええ。今回、レコーディングでは2パターンの歌唱法で唄ってみたの。1つは普通にサラッとした唄い方…私の歌は普通にサラッと唄っても基本は入れ込み型なので、しつこいらしいんですけど(笑)。そしてもう1つは、メチャ入れ込んだ唄い方。例えば夜、お酒を呑んで、泣き泣きお手紙を書いて、次の朝それを読むと、恥ずかしかったりするじゃない? つまり朝書いた手紙と、夜書いた手紙のような2パターンの唄い方をしてみたのね。そして、今回は夜お酒を呑みながら泣き泣き書いた手紙のような唄い方の方が良かったので、そちらを採用したんです。少なくとも、この歌に関しては入れ込んだ方が良い、と私は思ったの」


自分でそれを判断して?

「そのへんの判断って、昔は作家の先生方が〝それ、もっとやって〟とか〝そこまでやらなくて良い〟とか、どんどん言ってくれたんですよ。すごく年上の、大御所の先生が多かったので。今は先生方がなかなか言ってくれませんから…。『暁』を書いてくれた杉本眞人先生がちょっと言うくらいかな?(笑)。だから自分で自分の歌を俯瞰で見て、自分でそこを判断していくんです。そういう時代、そういう年代になったみたい」


それは歌手の個性を尊重するという意味と、キャリアのある歌手の方に敢えて言わない…というのもあるんでしょうね。それだけ伍代さんもベテランになった?

「そうなんでしょうね。たくさんの歌手の方が出るステージだと、いつの間にか年配組に入ってきて…そういうのもイヤですね(笑)。いつまでも若手の気持ちで、先輩についていく方が楽ですし(笑)」

『雪中相合傘』は、究極の幸せの場所、そこに向かう2人の歌

伍代夏子:『雪中相合傘』は、究極の幸せの場所、そこに向かう2人の歌

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唄い出し♪あゝ~の表現


『雪中相合傘』のカラオケアドバイスを頂けますか?

「出だしよね、やっぱり。出だしの♪あゝ~は3コーラスとも、私はそれぞれ違う唄い方をしてるんです。その1コーラスの内容が、最初の♪あゝ~に表れるように。 昔、市川昭介先生が私に『大阪しぐれ』のレッスンをしてくださった時があって、最初の ♪ひとり~で何度もダメ出しをされたの。あの歌は〝1人では生きていけない〟という女性の歌じゃないですか。だから、 ♪ひとり~という唄い出しから、この女性は〝1人で生きていくことができない〟人、というのが伝わるような唄い方じゃないとダメだと。市川先生から〝あなたの ♪ひとり~の唄い方は、1人で生きていける女性に聴こえるよ〟と何度も注意されました。そういう意味で例えば『雪中相合傘』の1番♪あゝ~は、風吹(ふぶき)の旅へ向かう2人を連想させる♪あゝ~で唄えるようにしてもらえたら、と思うんです」

生命の尊さ


雪はお好きですか?

「寒いのも暑いのも嫌いなので…(笑)。でも、雪だるま、雪合戦は好きかも(笑)。お正月は下北半島にある別荘で鎌倉を作って、中でお酒を呑むのが恒例なんです」


相合傘は?

「実は、うちに傘は1本しかないんですよ(笑)。それで、ごくまれに雨の時、夫婦2人でちょっと外に出る時は、相合傘になったりしますね」


2020年は5月19~21日に東京・明治座で藤あや子さんとのコンサート、そして9月(5日~20日)には大阪新歌舞伎座にて、同じく藤さんとの劇場公演が予定されていますね。

「そうなんです。で、来年は8月に東京オリンピックじゃないですか。劇場公演の宣伝がてら、あやちゃんと2人で顔に日の丸を書いて、オリンピックを観に行こうかな …と思ったんですけど、8月はお稽古で忙しいですから、やめました(笑)」


(笑)2020年はどんな年にしたいですか?

「いつものように新曲で一生懸命に頑張るだけです。でもお稽古ごとで新しい挑戦をしようとは思っています。何のお稽古かは…今は秘密(笑)」


最後に、今好きな言葉は?

「一期一会かな。ここ数年カメラに凝っていて、動植物を中心に撮っているんですね。で、その撮影した動植物を必ず色々と調べるんです。この蝶々は成虫のまま越冬するとか、秋までの命とか。例えばトンボの成虫は寿命が数ヶ月で、今年撮ったトンボとは、来年はもう逢えないの。でも、その子の子孫とは翌年、また逢えて、その子孫をまた撮れるかもしれない。そういうことを思っていると、世の刹那を感じると同時に、自然界のすごさ、生命の尊さを感じるの。人間はもちろん、動植物、生きとし生けるものはすべて一期一会なんだな、って胸が熱くなるんです」

新曲『雪中相合傘』のレコーディングにて。作詞の池田充男氏(右)&作曲の弦哲也氏と伍代夏子

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▲新曲『雪中相合傘』のレコーディングにて。作詞の池田充男氏(右)&作曲の弦哲也氏と

 

番組で香西かおり、藤あや子と伍代夏子。なお2020年は明治座で藤あや子とのコンサートや、大阪新歌舞伎座での劇場公演が予定されている

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▲番組で香西かおり、藤あや子と。なお2020年は明治座で藤あや子とのコンサートや、大阪新歌舞伎座での劇場公演が予定されている

 

伍代夏子「キャリアの長い島津悦子ちゃんとか石原詢子ちゃん、多岐川舞子ちゃん、大石まどかちゃんがいる会は、美魔女の女子会と呼んでるの」

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▲「女子会と言っても、若手を入れた女子会の他に、キャリアの長い島津悦子ちゃんとか石原詢子ちゃん、多岐川舞子ちゃん、大石まどかちゃんがいる会は、美魔女の女子会と呼んでるの…美魔女じゃなくて、つぼね会だと怒られちゃうから(笑)。この会で海外旅行をしているんですけど、私はライオンとか写真に撮りたくてアフリカに行きたくて…誰も賛同しませんけど(笑)」(伍代)

 

伍代夏子「インスタグラムをはじめてから、カメラが趣味になってます。」

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▲「インスタグラムをはじめてから、カメラが趣味になってます。まだ2~3年くらいかな。600㎜の望遠レンズにエクステンションをつけて、お散歩しながら鳥とか植物を撮ってるの。公園の植え込みの中で、マスクして帽子かぶって、一眼レフを持っていたら私よ(笑)。最近はバレているのか、いきなり〝伍代さん、今日は良い写真取れましたか?〟と声をかけられて、びっくりしたり(笑)」(伍代)

 

動植物を撮っていると、命の尊さを感じるの

伍代夏子「動植物を撮っていると、命の尊さを感じるの」

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伍代夏子が撮った写真で、最近のお気に入り。伍代夏子「巣から落ちた巣立ち雛…キセキレイの雛の写真は、特に好きかな」

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▲伍代夏子が撮った写真で、最近のお気に入りをください…と依頼し、彼女が選んでくれた写真。「本当はどの写真も気に入っているんですけど(笑)、巣から落ちた巣立ち雛…キセキレイの雛の写真は、特に好きかな」

※本インタビューは、「歌の手帖」2020年2月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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