三山ひろし 【歌の手帖2020年11月号】三山ひろし「きっと、あなたの街へ」巻頭インタビューより

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※本インタビューは、「歌の手帖」2020年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

ほかならぬ三山ひろしであっても、新曲『北のおんな町』を発売し、全国コンサートツアーへ…というところで、自粛生活に。
そんな中「ファンの皆さんに何か楽しいことをお届けできないか」とYouTubeを活発に更新するようになり、配信ライブも開催した。
師匠・中村典正氏のアルバムを発売し、今後、ソーシャルディスタンスでのコンサートも展開していく。
そんな歌謡界の至宝・三山ひろしの秋からの展望、胸中とは―。

(撮影/浅見健一)

■プロフィール

三山ひろし
1980年9月17日生まれ
高知県南国市出身
AB型
好きな言葉/初心忘るべからず
中村典正氏の弟子として修業し、2009年『人恋酒場』でデビュー
2015年、第66回NHK紅白歌合戦に初出場。以降、5年連続出場
最新曲は『北のおんな町』
アルバム『絆の譜~恩師・中村典正を歌う』発売中
DVD『NHK DVD三山ひろし うた語りステージ傑作編~』発売

多趣味

今年は本当に、新型コロナの影響が多大でございますが、三山さんはお忙しそうですね。

「はい、三山ひろしがあと3人いればいいな、と(笑)。
本当に、時間が足りないくらい忙しかったですね。
それもこれも、自分のせいなんですけど。
やりたいことを増やしてしまっているので(笑)。
…今までは庭の手入れをする時間がなかったのでお願いしていたんですけど、今年はヒマで仕事が何にもないから、自分でやってみようか…と思って。
伸びているところを切っただけなんですが(笑)。
ところが、剪定鋏をずっと使っていなかったので錆サビだったんです。
なので〝これを綺麗にしてからやろう〟と。
砥ぎから始めたので、1日じゃ終わらなくて。
剪定鋏を綺麗に砥いで枝を切ってごみ捨てまで、2~3日あっという間ですね」

今までの趣味、ドローンや蓄音機修理、珈琲、カブトムシ…
最近ではプラモデルも作られていたし、何とも多趣味。車のプラモデルも、かなりこだわってますね。

「こだわってやっています。
どれだけ実車に近づけて作れるか、という。
奥が深いです。
塗装ブースも買いましたし、湿気を防ぐために乾燥機、そしてエアブラシも買いました。
こだわればこだわるほど時間がかかるんですよね」

こだわったのに

YouTubeでは、プロダクションの〝ミイガンチャンネル〟と〝三山ひろし公式チャンネル〟がありまして、マスクを作ったり愛犬とのお散歩も公開していますし、初のライブ生配信ではギター弾き語りも披露(P11のギターはデビュー前に購入した愛器)。
市川由紀乃さんとの〝除菌音頭チャンネル〟もあって、コント仕立てでとても楽しくて話題になりました。

「あのコントは由紀乃さん発案なんです(笑)。
自分も楽しくやらせていただきました。
これだけ唄う時間がなくなってしまったら、どこかで発信していかないと…忘れられてしまうのではないか…
ファンの皆さまも応援のし甲斐がないんじゃないか、と。
テレビやラジオはありますが、それだけでは身近に感じていただけないので。
何かないか?と、事務所のみんなで考えました。
僕も、やるんだったら中途半端にやらないで、きっちりやらなければ…と、動画編集がきちんと出来るように事務所スタッフ全員、もちろん僕もソフトを購入して。
パソコンを新調しました。もうコロナ出費ですよ」

そうすると、マスク作りの動画編集もご自身で?

「いえ、マスク編はスタッフさんがやってくれました。
僕が編集したのは、けん玉のリモート検定なんです」

ほぉ、凝ってましたよね。どのくらい時間かかりました?

「編集は途中でやめられないから…時間置くとテンションが変わっちゃうじゃないですか。
なので、夜通しやっちゃいます。
スローにしたり字幕入れたり、モーションかけたりいろいろ工夫してめちゃめちゃ時間を割いて作ったんですけどね…
労力と数字は比例していないみたいで(笑)。
うちの犬・リリちゃんと散歩しているだけの動画は8万近い再生回数なんですが…
リモート検定は千とか3千なんです。
いえ、それだけの方に見ていただけて嬉しいは嬉しいですけど、あれだけ時間をかけて編集したのにワンちゃんとの散歩の2割 …(笑)。
しかも、著名なゲストをお呼びしてですよ。
もう、申し訳ないやら悲しいやら(笑)」

1匹だけ逆に泳いでたイワシが自分みたいだなぁって(笑)

三山ひろし アルバム『絆の譜~恩師・中村典正を歌う~』

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三山ひろし 収録曲=お岩木山/浮草慕情/男の港/こころ酒/祝い船/終着駅は始発駅/むらさき雨情/熊野灘/父・娘/花街一代/仁義/大阪夜曲/男の燈台/祝いしぐれ/これから峠/男の路地裏

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■アルバム『絆の譜~恩師・中村典正を歌う~』
CD:CRCN‐41343 ¥2,818+税  8月16日発売 日本クラウン
収録曲=お岩木山/浮草慕情/男の港/こころ酒/祝い船/終着駅は始発駅/むらさき雨情/熊野灘/父・娘/花街一代/仁義/大阪夜曲/男の燈台/祝いしぐれ/これから峠/男の路地裏

中村典正先生の歌

6月18日に、「特別な気持ちで」とレコーディングされたのは、アルバム『絆の譜~恩師・中村典正を歌う~』ですね。
アルバムでも、いろんな声の色 ――演歌の中でも晴れやかな声、朗々とした声、男らしいガツンとした声、しみじみとした声――聴かせてくれますが、コンサートでは『ハナミズキ』などでの柔らかで繊細な声も。
それは、自動的にスイッチが変わるんですか?

「ステージではそうかもしれませんね。
レコーディングでは、カバー曲なので出来るだけご本人の雰囲気を出したいな、と思って唄います。
『熊野灘』では鳥羽一郎さんの声で覚えている方が多いので、鳥羽さんの声をイメージして練習します。
そうすると、鳥羽さん〝みたいな〟雰囲気に近づけるかな、と。
少し真似ている部分もあると思います。
どうやっても真似できない場合は、一回イメージを捨てて、自分の声でより近い雰囲気に寄せていきます」

新録が5曲ありますが、松前ひろ子さんもレコーディングにいらしたんですか?

「はい、来てくださいました。
アドバイスですか? うーん、〝母音をもう少し明るく唄った方がいい〟とか、そのくらいで。
あまりおっしゃらないですね。
あとはもう、自分が思った感じで唄ってね、と」

中村先生のちょうど1周忌である8月16日に発売ですから…。

「そうです…。
本当はもっと唄いたい、収録したい歌があったんですけど、あまりマニアックな歌を入れてもどうなのかな、と。
先生のデビュー作、北島三郎さんの『田舎へ帰れよ』を入れたかったんです。
鳥羽一郎さんの『浪漫ちっく東京』もそうだし、大川栄策さんの歌や松村和子さん、石原詢子さんの歌も。
ただ、やはり〝初めて中村先生のアルバムを買う〟方のことを考えないといけない…というご意見になるほどな、と思ったんです。
中村先生の1周忌だからアルバム買おうと思ってくださった方は、最新のものを買うでしょ?と。
だから、皆さんがよく知っている歌をいつも入れないといけない、と」

それもそうですね。

「なので、半分半分にしたんです。
代表作と、新しい歌と。改めて唄ったり聴いたりすると、素晴らしい歌ばかりだなぁって、改めて感じます」

ナイフのエッジを歩く

好評の新曲『北のおんな町』感謝盤が発売となっております。
カップリングが『SATOUMI~幸せは、あさこいよさこい』と『ありんこ一匹』。

「『ありんこ一匹』という、可愛いタイトルなんですが、ド演歌なんですよ。
『SATOUMI~』は僕の故郷、高知県の足摺岬にある足摺海洋館〝SATOUMI〟の応援ソングなんです」

とってもとっても美しい海、綺麗な場所ですね。

「そうなんです! 綺麗ですよね。
海洋館はリニューアルしたばかりですし。
高知出身の自分もオープニングセレモニーに出演させていただいたんですけど。
海の透明度が高くて、本当に素敵なところでした。清水サバも美味しいんです!
ごま油で食べるんですけど、めちゃめちゃ美味しいんです。ビールと合うこと合うこと!(笑)。
あ、ちなみに、カラオケで唄うときに〝さ〟ではなく〝S〟で検索しないと出てこないらしいです(笑)」

それは…直してほしいですね(笑)。
あ、そういえばTwitterの動画で、足摺海洋館内のイワシの大群が泳いでいる中、1匹だけ群れとは逆に泳いでいたイワシを見て「自分みたいだ」と…。
なんでそう思われたんですか?

「そうそうそう(笑)。
やっぱり、常に人とは違うところを歩んでいるような気がするんです」

そうなんですか?
三山さんといえば演歌歌謡界のビタミン王子、本流を大事に唄われて、王道を歩まれているかと思うのですが。

「あ、ありがとうございます。
でも、昔から〝変わってる〟と言われてきたので、あのイワシは自分みたいって(笑)」

変わってると?

「変わってる、あまのじゃくだねぇ…とよく言われていました(笑)。
大体、みんなが行く方向と全然違う方へ行くんですよ」

あまのじゃく(笑)。そう感じたことは一度もないです。

「僕も社会人ですから(笑)。
今年、もう40歳になりますし(9月17日)、あんまりとんがっていても(笑)。それなりに歩幅をね…。
でも、どこか心の中で、本流は逆に行ってるんですよ。
表向きは真っ直ぐに行ってるんですけど。
やっぱり、逆さを向いているところがあるから、ちょっと違うことをやってみよう…ということが出来るんじゃないかなぁとも思うんですよね」

それがチャレンジ精神に繋がるんですね。

「そうですね。
あと、同じ流れなんだけど、この仕事ってどこかで逆らいながら、自然淘汰されないようにするところがあるじゃないですか。
流れに少しずつ逆らいながら、流されないように、自分を見失わないように。
柔軟性は持ち合わせながらね。変に迎合しないで、ちょっとした反抗心は持ちながら、生き延びていくという」

みんなと同じじゃ意味ないですものね。

「そうなんですよ。
僕たちは、ナイフのエッジを歩いているような感じで、一歩外れたらもう終わりなんです。
その上の危なっかしいところにいるから、輝かせていただいているんだと思うんです。
そこを降りて安全なところへ行きましょう…じゃ、ダメなんです。
どこか尖ってないといけないんですよね。
そういう部分…逆に泳いでいる1匹のイワシと自分とが重なったんです。
みんなが同じ方向に泳いでいるところに、逆を泳いでいたあのイワシ、何とも愛おしかったですね」

DVD『NHKDVD 三山ひろし うた語り~ステージ傑作編~』
CRBN-90 ¥3,636+税 9月23日発売 日本クラウン
★NHKでの熱唱を全21曲収録。特別インタビューもあり

〝助〟の想い お互い助け合って、支え合って…

三山ひろし 「笑顔届けます~コンサート2020~」「コンサート2020」

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楽しい時間を共有

秋から、ソーシャルディスタンスでのコンサートが始まります。
始まりますというか、春に延期となったコンサートがやっと再開、ですね。
「笑顔届けます~コンサート2020~」「コンサート2020」、毎年恒例の東京・亀有でのコンサート、松前ひろ子さん、中村仁美さんとのコンサート…と、4種類のコンサート。

「やっとですね。
ただ、今回は舞台上もソーシャルディスタンスにしないといけないので、バンドでの公演とカラオケ公演とが半々なんですよ…致し方ないですが。
唄いたい、歌を聴いていただきたいということもありますが、一番は楽しい時間を皆さんと一緒に過ごしたいということですから。
果たして、歌だけで満足していただけるものなのか、心配もあります。
やはり、歌だけではなく、ステージと客席のやりとりがあって、楽しい時間を共有できる。
それを大切にやってきたので。それが、掛け声等禁止となると、果たしてどうなんだろう…と少し思っちゃったりしています」

4種類のコンサート、すべてメニューが違うんですよね? 今年の亀有も楽しみです!

「はい、すべて違います。
今年の亀有のテーマは…〝ひろし〟という名前の歌手の歌を集めました!です」

〝ひろし〟特集(笑)。亀有コンサートといえば、毎回新作を唄ってくださる亀有の歌。今年は…。

「今年はなんとですね! 僕が作詞の先生になりました!」

おおお…! 初作詞!

「作詞してタイトルも決めてたんですけど、なんだっけな…そうそう、『センチメンタル亀有』。
本来は春に開催するコンサートだったので、春の歌だったんですよ。
なので、これから作り直しなんです」

『センチメンタル亀有』、聴いてみたいです。

「歌詞ならあるんですけど」

「ふわりふわり」など、印象的な言葉がありますねぇ。
きゃー♡な歌詞もあります(笑)。素敵ですね。

「いや、そういう雰囲気のメロディだったんですよ。ちょっと体験談も入ってますが(笑)」

来年聴けることを願います。作詞するときは、メロディを聴いて?

「もちろん、メロディ先行ですね。
メロディを聴いて、歌詞を当てはめていく…という。
何回も何回もメロディを聴いて、全体の雰囲気を作ってから、耳に残るフレーズに言葉を入れて作りました。
新しい曲が届いたので今からまた、書かないといけないので。
〝これ聴いて作ってください〟って丸投げされてます(笑)」

三山さんが作詞した歌は、亀有でしか聴けないというのがまた貴重です。作家名は?

「亀有の歌は、音源化しないですから。ペンネームも考えないといけませんね(笑)」

必ず…!

今年も残り3ヶ月。三山さんを待ってらっしゃる方が日本全国にたくさん…。

「今まで通りにはいかないんですけど、形を変えて、皆さんのもとへ歌を届けにいきたいですね。
来年からは〝コロナだから行けない〟はナシにしたいです。
コロナだからこそ、出来る形で、新しい生活様式の中で出来るコンサートを、僕の歌を、必ず届けにいきます!」

では最後に、今のお気持ちを漢字一文字で言うと?

「〝助〟です。自他ともに、です。
お互いに助け合って、支え合えれば、コロナという大きな荷物も軽く感じていけるだろうし。
みんなで協力し合って、笑顔で生きていきたいですね」

編集後記

9月17日で40歳となった、三山ひろし。

「30代とあんまり変わらないですね(笑)。
ただ、来年厄年なので、いま前厄で。厄払いにも行きました。
とにかく、年年を有意義に、歌でも趣味でも個ずつ重ねていきたい」

と晴れやかな笑顔。
子供と一緒にアルミホイルで恐竜を作るなど、よき父でもあるが、最近では、キッチンの換気扇の下でひとり、焼き鳥を七輪で焼いて食べるのが好きだとか。
とにかく、いつも前向きで、「唄いたい。心底、唄いたい」という気持ちに溢れている彼の歌は、きっと何よりもの元気の源になるに違いない。

歌を、必ずお届けします――――!

三山ひろし「歌を、必ずお届けします――――!」

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※本インタビューは、「歌の手帖」2020年11月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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