※本インタビューは、「歌の手帖」2018年9月号収録の文章を当時のまま掲載しております

常に自分を見つめながら前進…時にお休みもした市川由紀乃の歌人生。
現在、25周年を迎え全国コンサートやテレビ・ラジオ出演にと超多忙な日々を送るが、決して初心と感謝を忘れることはない。
穏やかで誠実な人柄も人気の一つである彼女の心境を、率直に訊いた初夏の午後――。

撮影/浅見健一

市川由紀乃

(C)UTANOTECHO Inc.

市川由紀乃

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▲新曲『うたかたの女』水無月盤の発売日・6月6日に埼玉・サンシティ越谷にて開催したコンサート。越谷は由紀乃ちゃんが育った街だけに、「おかえり〜!」コールも盛大であった。コンサートは全国各地で開催中

忘れたくない

市川由紀乃

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電車に乗りたい

■1993年8月に『おんなの祭り』でデビューした市川由紀乃、早いもので25周年真っ最中。2016年年末のNHK紅白歌合戦に初出場を果たして以降、さらなる充実感が窺える、そんな笑顔である。

改めまして、25周年おめでとうございます!
紅白に2度出場されて…心境や環境等、変わりました?

「変わりました。ステージに立つ時の心構えが、まず変わってきました。以前から持ってはいたのですが、より強くなりました。まず第一に、来てくださったお客さまに楽しんでいただきたい。そのためにはどういうことをすれば喜んでいただけるかな、と。以前は、唄うことだけで精一杯な心境だったと思います。自分自身も楽しむ余裕がなかったというか…」

環境は…少々下世話ですが、移動がグリーン車になったとか専用車になったとか、あります?

「確かに…新幹線はゆとりある車両になりました(笑)。なるべく電車には乗るようにしています」

それは、なぜでしょう。荷物が多くて大変ではないですか?

「関東近郊では事務所の車で移動することも増えましたが、夕方くらいに終わったら荷物だけ送ってもらったりして、出来るだけ最寄り駅から電車に乗ります。
電車で移動していた〝あの頃の自分〞を忘れたくないですし、〝こうやって車で移動出来ていることを当たり前と思わないように!〞と言い聞かせている部分もあります。
それから、人間観察も楽しいです(笑)」

お笑い担当に?!

丘みどりさん、杜このみさんとのユニット〝雪・月・花〜演歌三姉妹〜〞のコンサートも今秋(9月3日・東京国際フォーラム/10月1日・大阪NHKホール)開催されますね。
このユニットでは、どんな由紀乃さんが見られますか?

「私は、おもしろキャラになろうかと思います(笑)」

なろうとしなくても、素はそのままでおもしろいですもんね。素を出していく!ということかな。

「おもしろいかどうかは…自分ではわかりませんが(笑)、みどりちゃんとこのみちゃんは女子力が高くて可愛いですから。
私はダチョウ倶楽部の竜兵さんになりたいです」

そこまで!(笑)。3人のコンサートが俄然、楽しみになってきました。普段の単独コンサート(全国43ヶ所・70公演)では絶対に観られない〝市川由紀乃〞が見られる…。

「そうありたいです。ちょうど、20代、30代、40代の3人なのでバラエティ豊かなコンサートになるのでは…と。構成はまだ何にも決まっていませんが(笑)。
3人とも、個々のコンサートとは違う一面を出せたらいいなぁと思っています」

“あの頃の自分”を

市川由紀乃

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ふたりがいてくれたから…

山内惠介さん・三山ひろしさんとともに行っていた「三波春夫 没後15周年特別企画 スペシャルコンサート」。4月に三波さんの故郷・新潟で行われた最終公演では、涙なみだ…だったそうですね。

「はい、三波美夕紀さんにもご登壇いただいたのは、事前に何も決まっていなかったんですけど…美夕紀さんからもお客さまへお話していただきたいし、お客さまの前で美夕紀さんに〝ありがとうございます〞って言いたいよね…って本番前に話していて。
〝やっちゃいましょう!〞って三山さんの一言で決めました。
最後、4人でステージに立てて、美夕紀さんが〝この会場に、三波春夫もいたと思います!〞と言ってくださって、涙が止まりませんでした。

歌手人生の中でも、すべてが初めてでしたし、すごく大変でしたけど…ステージ上ではふたりがいたから乗り越えられたと思うんですよね。
山内さんは学級委員、まとめ役、リーダーとしてきちんと締めてくれて、でもボケてもくれて、ムードメイカーで。
三山さんとは、ふたりでのジョイントコンサートも多かったので、浪曲とか細かい部分を現場で分からなくなった時に教わっていました。
みんなで作り上げた、緊張感が半端なかったステージでした。
打ち上げの時に、海外で忠臣蔵をやりたいね!と話してたんです。実現させたいです」

家族のように

5年前のインタビューで10年後の夢を「歌手を続けていたい。女性として家庭を持っていたい」とおっしゃっていました。

「家庭…そんなこと、言ってましたか(笑)。結婚、したいです。
いつかご縁があったら…最近、応援してくださっている女性の方から…〝結婚して、プライベートでも幸せなのねって、元気なうちにちゃんと実感させてほしい〞〝幸せなところを見たい〞と言われることが多くてですね(笑)。
姉のような母のような心境でいてくださっていると、とてもあたたかな気持ちになります。
歌手としてではなく私個人も応援してくださって、家族のように思ってくださっているんだなぁと。
ありがたいですね。
しばらく予定ないですけど、(結婚の)夢は諦めず…という心境です(笑)」

贅沢なこと…

3年前の巻頭インタビューでは「40歳からの人生が楽しみ」とおっしゃっていましたが、現在42歳。どうですか?

「40代、楽しいです! 10代、20代はいろいろありましたから…特に20代は、大げさかもしれませんし言っていいかどうか分かりませんが、生きるか、死ぬか…という心境の時も1年間くらいあったので」

歌手休業前、ですよね…。

「はい、人生崖っぷちでした。何度、真剣に死と向かい合ったか…それほど、追い詰められていました」

その時代があったからこそ、今の〝市川由紀乃〞になったはずですよね…。
日常のことをすべてひっくるめて、とても丁寧に生きているなぁと感じているんだけど、それは、生きていることをより実感しているからかな。

「生きていることが大事だし、命というのは本当に尊いと…だからこそ、生かされている間に何が出来るかな?とか、生きていることだけでも贅沢だなぁって感じています」

きっと、褒めてくれてる(笑)

市川由紀乃

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水色? 青?

新曲『うたかたの女』、ヒットしていますし、唄われてもいますね。

「メジャー調が久しぶりなのでどうかなぁ…と思っていたのですが。みなさんにいいね!と言っていただいたり、唄ってくださっていると聞いて、嬉しいです」

カップリング『雨に濡れて二人』はクレイジーケンバンドの横山剣さんとのデュエットですね。コンサートでは、横山さんの看板(左写真)が出てきて…(笑)。

「そうなんです、コンサートではあの形で唄わせていただいています。
いつか、どこかで横山さんと何か出来たらいいなぁ…と」

市川由紀乃

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ところで今、レコーディング中のようですが、何を…?

「秋に発売いたします、カバーアルバム(2枚組)のレコーディングなんです。どんなアルバムかは…名曲がたくさん!とだけ(笑)」

楽しみにしていますね(笑)。
では…2018年後半の色は?

「……水色、青? 晴れた日のキレイな青空の色。心が晴れていますし、青が好きだから(笑)」

澄み切った気持ちなんでしょう…八面六臂の活躍をしている市川由紀乃さんを見て松村真利ちゃん(市川の本名)は、何て言ってくれますかねぇ。

「誉めてくれてますね。頑張ってきてよかったね、と(笑)」

編集後記

■言葉の端々からも丁寧に、そして誠実に日々を過ごしていることが、やわらかく伝わってきた60分。
刻々と過ぎていく時間を慈しみ、出会った方々への感謝を素直に口にし、瞳にたたえる。
歌声とともに、その人柄は人をあたたかで優しい気持ちにさせる天才、でもある――。
そんな彼女は来年3月、愛知・御園座での五木ひろし座長公演になんと、妻役で芝居にも出演するという。
活躍の幅が広がっても、きっと〝市川由紀乃〞の本質は変わらないだろう…。

 

※本インタビューは、「歌の手帖」2018年9月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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