三山ひろし

(C)UTANOTECHO Inc.

※本インタビューは、「歌の手帖」2022年1月号収録の文章を当時のまま掲載しております

コロナ禍が続く2021年だったが、コンサートツアーや大阪新歌舞伎座での7公演コンサート、リサイタル、テレビ・ラジオ出演、初の落語挑戦等などで笑顔をくれた我らが三山ひろし。
彼にとって今年はどんな1年だったのか、そして来年の展望は?
リラックスムードで訊いた、あれこれ

(撮影/島崎信一)

バシャーッと


2021年もご活躍でした。
「笑顔を届けますコンサート」「ソーシャルディスタンスコンサート」「歌の宝石箱」「あなたの街へコンサート」といったツアー…「歌の宝石箱」は、今年6月3日に東京・中野サンプラザで行なった、「リサイタル2021~歌の宝石箱~」のツアー版でしょうか?

「そうですね。あのリサイタルの曲数を少々変更した感じの内容になっています」


オリジナルはもとより、星の歌を集めた「スターコーナー」、長編歌謡浪曲、さらに「世界一周コーナー」もあり、弾き語りも…。

「そうそう(笑)。サブタイトルにつけたように、歌というキラキラした宝物を、宝石箱からバシャーッと出した感じの音のシャワーを浴びていただきたくて」


バシャーッと(笑)。

「ザバーとか、ドバーッとか(笑)。それでね、やっぱり音楽っていいな……コロナ禍でコンサートへ行く機会も激減したけれど、そんな中でも三山ひろしのコンサートへ行ったらいろんなジャンルの歌が聴けて、歌は演歌だけではなくジャンルの垣根を越えても、こんなに楽しいことなんだなって。これからコロナ禍が続いたとしても、音楽は聴き続けたい……そんな風に感じていただけたら嬉しいなぁと。そういう想いで、たくさんの歌を詰め込みました」


印象としては、あの日のままなんですね。衣裳も同じ?

「大体、同じかな…。オープニングの着物は、新しいものに替えました」

いい言葉を


衣裳はご自身でセレクトを?

「いくつかご用意してくださったものの中から〝僕はこれがいいけど、皆さんはどうですか?〟と訊いて…みんなで決める感じですね」


訊かれたスタッフさんに、「これはちょっと変では」と言われたりしないんです?

「いくつかあるのでね、〝変〟ではなく〝こちらの方が〟という。1点しかなければ〝ちょっと…〟ってなると思いますけど(笑)。うちのスタッフさんは棘のない人が多いので、僕を含め(笑)。みんな優しいですし。マイナスなことは、言いたくないんです。言っているとどんどん自分の気持ちが荒みそうなので。出来るだけ、いい言葉だけを発していたいですね」


喧嘩もしないですか?

「しないですね。したくないから、堪えられることは堪えます。だから、あんまり人とぶつかることはないです。どうしてもこれだけは!ということに対しては、言いますけど。ただ、僕のまわりにいてくださる方は、何にも言わなくてわかってくれる…ありがたいことに、そういう方が多いです。
怒るのってエネルギーいるじゃないですか、疲れちゃうんですよ(笑)。普段、コンサートで全力使い果たしていますから。そのステージに立てることで満たされているし、心が穏やかになるんです。皆さんに可愛がっていただいているので、そんなに怒ることはないですね」

気落ち…


これだけいろんなツアーを…大きくわけると4種類のツアーですが…されている理由は?

「皆さまに違うことをお見せしていきたいですし、自分自身も違うことをやりたいんですよね。〝あなたの街へコンサート〟は元々、もっと皆さまのお近くにこちらから行きたい…と考えたことが発端なんです。なので、それほど大きくない、千人以下の会場にしています。大きさが違うので、通常ツアーでのセットは乗らないですし、曲目や内容を変えないと…と。あと、〝ここでしか聴けない〟ものを作っていきたいなぁと。正直、少しシンドイですけどね(笑)。でも、喜んでいただけることを考えれば、何ともないシンドさです」


去年よりも、今年はコンサートが多いという印象です。

「ありがたいですねぇ。ただ、コロナ禍前のスケジュールを思い出すと、全然やってないな…と思っちゃうんですよ。日常がコンサートだらけだったので。ああ、なんかガックリ減ってしまったなぁ…って、気落ちしちゃうんです。世の中に僕は必要とされているんだろうか…………なんて、変なことを考えたりしました。まぁ、状況がよくないから、そう思ってしまうんだなって」


ポジティブな三山さんでも、そう感じてしまうとは。

「仕事がないというのは、ねぇ…。1日や2日ならまだしも、1週間…2週間…ひと月…唄えない日々が続くと、考えなくてもいい余計なことも考えてしまうんです。暇があると。あれはよくないですよねぇ。
今年は、目標となるリサイタルやコンサートもありましたし、ツアーも出来たし、〝ライブがある!〟ということは、こんなこと言っては何ですが、生き甲斐に繋がりますよね。歌い手として存在していていいんだなって思える瞬間です」

人生のバラエティ


今年も趣味方面も多色でした。けん玉やドローンはもとより、プラモデル、裁縫、カブトムシ・クワガタ飼育、こだわりのコーヒー、あとお米〝みやま米(岐阜県山県市美山地区)〟作り…1月には、ブリをさばいたりもされていました。

「ブリをさばく…? ああ! そうそう、さばきました!」


包丁研ぎもお得意ですが、まさかブリをさばくとは驚きました。

「もちろん、本格的ではありませんけど(笑)。動画を視ながら見よう見まねで、刺身とカマ焼きにして。脂がのっていてめちゃめちゃ美味しかったですよ。あの時、高知の〝ぬた〟があればなぁって。ちょっと残念でした(笑)。まさか東京で高知のぬたが売っているとは…。〈秘密のケンミンSHOW極〉(日本テレビ系)でロケへ行くまで知らなかったんですよねぇ。〝まるごと高知〟(東京・銀座)には何度も行っているんですけど、完全に、高知にしか売っていないと思い込んでいたので。あのロケで見つけたときには、おおおっ!って興奮しました(笑)」


それにしても、元々多趣味でいらっしゃるのに、さらに増えて…。

「音楽は音楽として、趣味は…人生のバラエティの多さですね(笑)」


そして、これはお仕事ですが…今年は新しく落語にも挑戦されました。立川志の春師匠からいただいたお名前は、三山家とさ春。

「〝みやまけ〟ではなく、〝みやまや〟ですね。志の春師匠に懇願をして弟子にしていただきました」


きっかけは、歌謡ポップスチャンネルさんの番組ですよね。

「1ヶ月で落語を覚える…という。いやもう……シビれました、大変でした(笑)。師匠の噺の音源を聴いて、まずは音だけで覚えて。実際に発声してみて。それから、高座を拝見しに行きました。実際に落語をやってみて…すっごく楽しかったです。正直、落語は自分に合っているなって思いました(照れ笑)」


ファンクラブのお誕生日イベントでも披露されたとか。

「そうなんです。これからも続けていきたいです…と思っていたら、来年、やらせていただけるかもしれません」


落語だけのステージですか?

「真打ちである志の春師匠の落語と、覚えたてのひろしの落語。この2つを落語ファンの方、演歌ファンの方、それぞれの皆さまに楽しんでいただけたらなぁ…と。
落語ファンの皆さまは通ですからね。その方々の前で、落語するのは…めちゃめちゃ怖いです。ドキドキしますし、気が引き締まります。今後、もし落語としても一つのステージが出来れば、よりおもしろく思っていただけるのでは…と思っています」

存在していて、いいんだなって

三山ひろし

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2枚の新曲

2021年は、新曲『谺―こだま』を1月13日に、7月28日には『浮世傘』をリリースされました。

「皆さまに喜んでいただけていると、実感しています」

『浮世傘』はUSEN月間演歌/歌謡曲ランキングでも1位でしたし、オリコンさんでもずっとベストに。正直、9月号のインタビュー時には「この時代に、この歌?」と少し思わなくもなかったのですが…制作陣の愛情と天才ぶりに完敗・乾杯です。

「確かに、大半の方が〝いまの時代に、この『浮世傘』…合ってるのかな?〟と感じられた部分があったと思うんです。僕自身も、ひと昔前の時代だなぁって思いながら唄っていたので。ところが、何がどこでどう受け入れられているのか理由は分からないのですが、たくさんの方に支持していただいていて。本当に、とても嬉しいですねぇ。
ディレクターさんがおっしゃってたんですけど、〝クラウンらしい歌が出来た〟と。ひと昔前のクラウンの歌は、こういうタイプが多かった、と。『兄弟仁義』や『盃』、私の師匠・中村典正先生の『仁義』、その頃の威勢のいい男の生き様を描いた作品を、いまの時代に出させていただけたなって。
歌の主人公は真っ直ぐで、曲げることをしない。だから世間に負けるわけで…。本当は、誰もがみな、思った通りに生きたいんですよね。だけど、出来ない。そんなことを代弁してくれている歌なのかなぁって、もしかしたらそういう部分もあるのかもしれませんね。こんな時代ですから、余計に」

作詞

さまざまな演歌、長編歌謡浪曲、アニメ、叙情歌…本当に幅広い歌を唄い伝えてくださるので、いつか『三山ひろし ラブソングを唄う』なんてアルバムも出していただきたいと。2016年のNHKホールでのコンサートで拝聴した『恋』にいたく感動しましたし、今年の亀有コンサート(毎年恒例/コンサート2021~歌い継ぐ!昭和の流行歌~)での『センチメンタル亀有』も最高でした。

「あの『センチメンタル~』がね、すごくウケたんですよ、スタッフ間で(笑)」

あんな風に唄われている表情や仕草も初めて拝見しました。昨年の『愛しき亀有』に続いて、今回も三山さんが作詞ですが。まさかのロマンティックな歌詞で。

「ちょっと削られてしまった部分があるので、ステージで説明させてもらったんです(笑)。仲のいい女友達のことが実は好きで、でもその女性は別の男性が好きで悩んでいる…という。浜田省吾さんが好きなので、そういう世界を書いてみました」

唄いたかった世界

DVDやアルバムもいくつか出され、リリースも多かった1年ですが、新しいアルバム『こころの歌~三山ひろし叙情歌を唄う~』を12月8日に発売。

「結構、いろんな年代の叙情歌を収録しています。『少年時代』や『涙そうそう』も入れていますし、幅広いかもしれません。『叱られて』は、高知出身の弘田竜太郎先生の作詞なんですよ。『赤とんぼ』『銀色の道』…いい歌ばかりです」

叙情歌を唄いたい、と三山さんから?

「ずっと前から唄いたいと思っていました。新歌舞伎座さんの舞台でハーモニカ奏者の方とご一緒したときに、童謡や叙情歌の世界を唄わせていただいて。やっぱり、この世界もいい、アルバムに出来たらいいんじゃないかなぁって。実現の運びになって、嬉しいですね」

■アルバム発売!『こころの歌~三山ひろし叙情歌を唄う~』 日本クラウン CRCN-41385
収録曲(順不同)=早春賦/花~すべの人の心に花を~/浜辺の歌/白い花の咲く頃/夏の思い出/知床旅情/少年時代/涙そうそう/赤とんぼ/空に星があるように/故郷(ふるさと)/叱られて/ゴンドラの唄/銀色の道/椰子の実/かあさんの歌

 

そして、松前ひろ子さんとのデュエット『人生援歌』が発売となりましたが、今年は毎年恒例〝いい夫婦の日〟コンサート(一昨年まではディナーショー)が延期となってしまったんですね。

「はい、残念ながら。去年はハイブリッドコンサートとして開催できて、今年はティアラこうとうで開催予定だったんですけど…2022年の2月13日、東京・日本橋三井ホールになりました」

昭和の男の生き様を

三山ひろし

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寂しいです

2021年はどんな年でしたか? 恒例ですが、今年の漢字ひと文字も教えてください。

「結果、楽しかったですね。ふさぎ込む、ということもあまりなく。去年よりは楽しい時間を過ごせました。皆さまのお陰です。感謝しかありません。本当、充実していました。漢字ひと文字は…〝宝〟です。やはり、歌という宝を宝箱から出すということで。辛い時期が続いている今だからこそ、気づく宝物があると思うんです。例えば、人の温もりとか、拍手とか。もちろん、今までもありがたいと思っていましたけど、そのありがたさを再確認出来ました。客席は声を出せないだけに、拍手の熱や重みの感じ方が違いますし。普段、見えなかったこと、コロナ禍だからこそ見えた宝物。僕自身、たくさんの宝物を見つけることが出来ました」

少々気が早いですが、2023年に15周年を迎えられますね。来年は?

「15周年に向ける14年目なので、いい弾みがつく年にしたいですね。1日でも多く舞台に立ちたいです、形にこだわらずに。都道府県へ行きたいし、行って皆さまとの心の交流がしたいですね。そのためには、歌でなくてもいいかも…と柔軟に考えています。
とにかく、三山ひろしが行くよ!というのをやっていきたいです。縛りをつけないで、とにかく〝あなたの街へ行きます〟と。みんなで一緒に、元気に頑張っていきましょう、どんなことがあっても。という気持ちを伝えるためにも、行きたいです。やはりですねぇ、寂しいんですよ。これだけお会いできない期間が長いと。コンサートが再開しているとはいえ、まだまだ全国的には延期や中止が多いですから。なので、形を変えてでも皆さんの元へ行きます」

■高知家のアニキ(高知県のプロモーションキャラクター)、東京オリンピックの聖火ランナー、音楽バラエティ番組等でも活躍した今年。研鑽と勉強を尽くした「エンターテイメントとしてのおもしろさ」は絶妙で、その理由を問うと「ステージや歌もそうですけど、皆さんにとにかく笑顔になっていただきたい。それだけなんですよね。あいつ観てるとなんだか楽しくなっちゃうなって、そう思っていただけたら本望なんです」 笑顔を見せてくれた。2022年5月には、大阪新歌舞伎座での座長公演(5月20日~31日)を予定している。

一緒に、元気にどんなことがあっても

三山ひろし

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■プロフィール
1980年9月17日生まれ。
高知県南国市出身
AB型、好きな言葉/初心忘れるべからず
2009年6月3日、『人恋酒場』でデビュー
2015年、『お岩木山』にてNHK紅白歌合戦初出場を果たし、以降6年連続出場
最新曲は『浮世傘』(楽譜、インタビューは9月号に掲載)
■2022年1月26日、新曲発売!
『花恋歌~はなれんか~』
作詞/かず翼 作曲/弦 哲也C/W 海峡の雨
夫婦の情愛を女性目線で描いた、軽快なリズムの明るい作品。「シャレなんですが言葉遊びが入っている歌です。みんなで楽しく盛り上がれればいいなぁと思っています」という新曲のお話は、またインタビューを掲載!(3月号予定)

※本インタビューは、「歌の手帖」2022年1月号収録の文章を当時のまま掲載しております

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